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『アフターケア』episode 01

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(3)ゴミ屋敷



Y区の現場に到着した我々「便利屋」は、レンタルした4tトラックを横着けすると、ゴミ屋敷の全貌を目にする。

それは、敷地内に散乱するゴミの山。
何を考えこのようなゴミを収集したのか計り知れないが、
何はともあれ、この状況を打破すべく現場への突入を試みようとしていた。

今回のゴミ屋敷は、Y区の閑静な住宅街に存在していた。
周囲の近代的な建物と違い、昭和初期に建造されたと思われる木造平屋の住まいは、時代に取り残された遺物でもあるかのようだ。

政やんに聞いた話によると、半年前まではこのようなゴミ屋敷ではなかったらしい。
ここの以前の住人は89歳になる老女で、独り淋しく生活してはいたが、家屋敷はいつも整然とされていた。

だが、ある時。
この老女に医者から認知症の診断が下される。
その頃からこのような状況になり始めたらしい。

一歩敷地内に入ると、既に異臭漂う雰囲気に圧倒されながらも前へと前進し続ける。
玄関にたどり着いた私達は、古びた引き戸をゆっくりと開ける。
その瞬間、夏場のむっとする空気と相まって部屋中の臭気が私達を襲う。
中は想っていた以上の光景が広がっていた。
既にゴミでうめつくされた玄関からは、蛞蝓でも通ったかのように、ウネウネと細い道が奥へと続いていた。
私達は、用意してきた手袋をはめチャコールフィルタ付きのマスクをすると、
蛞蝓の道に足を一歩踏み出した。

・・・・・

何?
えっ、マスク?言わなかった?それぐらい常識でしょ。
用意してないの・・・
ったく。しょうがないな、車に簡易マスクがあるから使っていいよ。

・・・・・

まったく、助監督ならそれぐらい用意しなっての。前原。

・・・・・

ハイハイ、じゃあ続きいくよ。
今日の翔ちゃんの出で立ちは、凛々しい作業着。
薄緑のツナギの背中にはLove&Pieceとある。

・・・・・

また、何?ツナギが凛々しいかって?
仕事をしている翔ちゃんは何を着ても凛々しいの!!
そのLove&Piece。遅ればせながら、我社名である。
翔ちゃんの代になってからつけたみたいで。
由来に関しては、たんに好きだからとのこと・・・

玄関を入って右側には6畳の茶の間。左側は、8畳が2間続いていた。
かつての茶の間では、客を招いて談笑していたことだろう。
その奥には、キッチン。未だ食器類がそのまま残されているのが物悲しい。
キッチンの左側に4畳半の部屋と奥側に廊下、それを抜けると8畳の部屋があった。
全ての部屋の窓を開けはなつと、一旦玄関へと戻りすぐ左側にある縁側の雨戸も開ける。
これで多少新鮮な空気が通るだろう。
それでも、臭いの元が有る限りマスクは欠かせない。

「それでは、始めますか」
翔ちゃんの合図とともに、玄関からゴミの選別を行う。
しばらくして、玄関らしくなったころ。
品の善い、草履が現れた。
此処に住んでいた老女のものだろうが、生前は着物を着る人だったのか、下駄箱にも数多くの草履が観られた。

そして、蛞蝓の道は本来の機能を取り戻し、以前の各部屋をつなぐ通路として眼前に現れた。
このころには、二人共汗だくになっていた。

・・・・・

ん、休憩しようって?うん。まあ、翔ちゃん次第ね。
「翔ちゃん、休憩しようよ。こう暑くちゃたまんないわよ」
「おう、そうだな。これじゃあ、まあ三日はかかりそうだから、急ぐこともないし」
 そう言うと、翔ちゃんは縁側のある庭へと向かった。
庭もゴミが散乱し手入れも行き届いていなかった。
それでも、ゴミや雑草などを除けばかなりのデザインセンス。
良い庭師さんが手がけたのであろうことは、こんな私にも理解できた。
 そこにある庭石に腰かけた翔ちゃんが、私に澄んだ眼を向ける。
「千里。あそこにある花の根元、見てみな」


(指さす方向を見ると、そこにはオレンジ色の派手な花が咲き誇っている。
その根元を見ると・・・淡い光輝く老婆の姿が見えた。
これは、スタッフには内緒の話だが、私たちはある程度残留思念的なモノがみえてしまうのだ。
これは、体質と言うか血と言うべきものなのか。
いずれ、詳しく説明することとして、今はスタッフにばれないよう振舞う)


「えっ、何。ああ、凌霄花(ノウゼンカズラ)だよね。綺麗だね。
手入れしてあればもっと花が映えるのに。ふうん。で、あれが、どうかした?」
「ああ、後で確認することがあるからさ」


(翔ちゃんは何時もの調子で笑うと、「確認」と言った。確認って…何~嫌な予感)


・・・・・

何?確認って何かって?そんなの知らないわよ。
あんた、いちいち五月蝿いわよ。
前原!いいから、あんたは撮影の準備でもしてなさいよ。

・・・・・

再び、私達が片付けを始めたのは茶の間から。
30分ぐらい作業していただろうか、ゴミの中から卓袱台(ちゃぶだい)が現れた。
埃を被り、だいぶ傷んだ卓袱台を退けると、その下に風呂敷に包まれた箱状の物を見つけた。
「翔ちゃんこれ」
私は、近くにいた翔ちゃんに声をかける。
「ああ、それかな?中に何があるか確認してみな」
傍に来て、翔ちゃんが告げる。
それ?確認?何ゾ!!私はとりあえず、包みを解き中身を見る。
中は、お菓子の詰め合わせだったアルミ缶。
蓋を開けると、中身はアルバムらしき物と、日記。そして、預金通帳。
名義は(鈴木トメ)と記載されていた。
翔ちゃんが確認したいと言ったのは、これのことだったのか?
「これ?」
「ああ、たぶん。千里、鞄とデジカメ」
「うん、解った」
私は、翔ちゃんに言われたとおり鞄とデジカメを車から取ってくると、目の前に置いた。

・・・・・

ん、ああ。あれは、個人的な物だから、状況写真を撮って依頼主におうかがいをたてるの。
本来なら、依頼主立会のもとゴミの撤去作業が行われるんだけど、信用されているから丸投げされてるって訳。
「千里、ちょっと手伝って」
翔ちゃんは、状況写真を撮り終えると、次に通帳とアルバム。日記の内容を撮影した。

(本当は中身を撮影してはいけない。ホホッ)

撮影が終わると、アルバムと通帳をAFTERCAREと書かれた。
アタッシュケースにしまい施錠する。

・・・・・

ん、アフターケアって何かって?ううん、翔ちゃんのサービスってとこかしら。
ん、なら、アフターサービスではって?残念ながら、これはケアになっちゃうんだよなあ、きっと・・・悲しいかな、無報酬だし。
理解出来ない?五月蝿いわよ、前原。

・・・・・


ある程度片付けを終えると、4Tonトラックいっぱいになったので今日は片付けるのを止め、ゴミ処理場に行って撤収となる。
だが、翔ちゃんはこれからが本番とばかりに、政やんに電話をすると何やら怪しい顔つきをしている。

予感的中。やはり、ケアに行くとみえる。
「千里、政文が任してくれると。だから、何時ものとこ行くから今日はこの辺で終了ってこった」
「うん、解った」
一旦事務所に戻ると、翔ちゃんはあらためて出かける準備をしていた。

・・・・・

何?もう終わったんだから帰んなさいよ。
えっ、これからどうするって。
それは、アフターケアのお時間だから無報酬でのお仕事が始まんのよ。
作品名:『アフターケア』episode 01 作家名:槐妖