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5mmのずれ

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5mmのずれ




 夜の10時。わたしの住む町とも村とも言えぬその境目にある地域には一ヶ所だけ信号がある。都会にあるような最新式のものより何世代も前のものが。そんな信号はもうこの時間帯になると光は点滅し、それとして機能しなくなってしまう。車の通りもほぼ皆無のため支障はないのだが。
 そんな過疎が進む十字路を、車が全く来ないことをいいことにわたしは自転車でぐるぐる回ってみる。あぁ、いい気持ち。奇妙な開放感と共にいつ車が来るだろうかいう緊張感がそこには存在し、混ざり合ってこれまた妙な快感へと変化していった。
それにしてもまったくなんて寂れたところなのだろうか。
 そのままそこをぐるり、ぐるりと何十週もした後、中途半端な傾斜のくねくねしている長い坂道を登り家へたどり着く。
 
 がちゃり。


「ただいま」

 
 返答はない。
 母はきっと寝ているのだろう。父は、・・・・・・父は何年も前にどこかへ消えてしまった。可笑しなことに、父からたまぁ~に、本当にたまぁ~に手紙は来るのである。それに対し、母は怒るどころか手紙を待って、それが来たら微笑んで読む始末である。
 普通の家庭であるならばそれはもう離婚だろう!とわたしの友人であるNは力強く言っていたが、どうやらわたしの家庭は特殊であるらしい。実の娘であるわたしでさえその現象に対してなんとも思っていない。父と母がそれでよければ、よいのだ。そういうとNの顔は不思議なものを見るかのような目で、苦笑しながら言った。


「はは、あんたはすごいわねぇ」



 家へ入るなり、わたしは汗で肌に張り付く制服とシャツを脱ぎ捨てシャワーを浴びる。設定温度は37度。ちょうどよい。

 夜ご飯はトマトのみ。
 どうやら私はリコピン中毒にでもかかっているらしく、一日最低でも一つはトマトを食べないとまるで生を感じることが出来なくなる。恐ろしいものだ。夏場はいいもの、冬にもなるとトマトの物価は上昇するため、わたしはきっと家計を苦しめているに違いない。お母さん、がんば。心の中で応援をしてみる。現実にはなんの効果もないというのを知りながら。

 深夜11時。とうとうベッドに入ったわたしだがどうにも、眠れない。眠くなるどころか全身がなんだかこちょがされているようにくすぐったくて落ち着かないのだ。
幽霊にでもこちょこちょをされているのか!と少し見えない相手にむっとしてみてもやはりそれは治まらない。それどころか悪化していくようにも思われた。
 たまらず私は飛び起きてしまった。

 
 アイス。そうだ、アイスだ。


 くすぐったい体を引きずりながら台所に行き冷凍庫からソーダ味のアイスを取り出す。私の一番好きなアイス。あぁ、おいしい。

 だが、やはり落ち着かないままだった。
 もはやどうしたら良いものか分からなくなり、ついに外に出てみた。

 さすが田舎である。人の気配はもちろん車が通る気配すらなくただ、ただ静かであった。日中は喧しく鳴き喚く蝉や虫、鳥のさえずりもまったく聞こえない。静寂。夜空も派手に主張することなく星たちは輝いていた。
 ただ、月だけは別であった。


「なるほど。満月なのね」


 大きく夜空を陣取る真ん丸な満月。まるで夜の王者とも言えるような輝きで私の住む下界を照らしていたのであった。
 そしてわたしはさながら狼男のように、この満月によって目覚めさせられていたのだと簡単に納得してしまった。まあ、わたしは女なので狼女、だが。
 心の中で遠吠えをしてみる。


 わおーん。わおーん。


 仲間にわたしの声は聞こえたかしら、と途端に全身楽しくなって、家の前の道路に寝転がってみた。見えるのは夜空に鎮座する満月と黒々とした森だけ。
 アスファルトが、あたたかい。ほんのり、体を包むようにそれは温かかった。そして柔らかいようにも感じた。不思議ね、あまりにも人工的なものなのに。少し自嘲的な気分にもなったがやはり楽しかった。そしていつの間にかあの、くすぐったい感覚は消え、興奮だけが体を支配していた。

 わたしはみんなより、ちょっと、5mmずれているのでは思う。わたしの親も同様に。でなければこんな行動などしないだろう、父を許すことなど出来ないだろう。みんなきれいに一列に並んでいるけれど、わたしは5mmずれているところに存在する。それはきっとわたしが息を止めるまで変わらない事実となるのだ。5mmのずれがわたしの存在を支えているようにも思えた。

 ふふふ、それはそれでいいのかしら。


 「狼女だから」

作品名:5mmのずれ 作家名:ぼんぼ屋