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VARIANTAS ACT10 砂の器

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Captur 1
[サンヘドリン中央会議室緊急議会]

「…ましてや、防衛戦力のひ弱さが…!」
「それは貴官の戦略的誤算なのでは?」
「戦略的上重要と謳われながらも、あの程度とは…」
「故に正面装備の拡大と、火力の充実こそが…」
「言い逃れはやめたまえ!」
「対ヴァリアンタス戦力とうたいながら、自軍閥の強化に走っているのは明白ではないか!」
「貴官の軍閥は対ヴァリアンタス戦力保持法行使目標制限の項目を意図的に黙殺しているとの噂があるが、どうか!」
「黙殺なるものは我が軍閥には存在しない!我々は保有戦力の細部に至る迄を委員会に提出している事をお忘れか!」
「素人目にはともかく、報告などいとも簡単に改竄出来る事などこの場にいる誰もが承知だ!」
「我が軍を愚弄するか!」
「詭弁を述べるな!」
「諸君!!!」
醜い言い争いをする軍閥士官と、サンヘドリン幹部を一喝するガルス。
「600名にも上る死者を出した今回の戦闘は、明らかにヴァリアントが支部の建設を妨害する物である! これで終わりとは思えん! 自分達の覇権争いをしている場合ではない!」
静まり返る議会。
この期に及んでも未だ調和を見せない『軍』に、ガルスは嫌気を感じていた。


「ガキ大将どもめが…」
 休会中、ガルスは吐き捨てるかの様に呟いた。
「実際目前に迫る危機に目を留めず、この期に及んで自分達の縄張り争い…『五つ星』など、ただの飾りになっとる…」
 グラムがガルスに言う。
「権力の亡者…?」
 煙草に火を点けるガルス。
「『敬謙な専心と言いながら、その力において実質の無い達』か…」
「テモテ書第二、三章五節…」
 ガルスは煙草を灰皿に押し付け、ベンチから立ち上がった。
「状況を一番良く知り、一番誉められるべきは、実際に戦場で血を流すお前達兵士だ…」
「開会します」
 議会の開会を知らせる職員。
 背を向け会議室に向かうガルスが、立ち去り際にグラムに言う。
「『サンヘドリン』を頼む…」





************




[同日0950時、三番滑走路上]

「スペクター01、進入路へ」
「こちらスペクター01、了解…」
「スペクター02、現状で待機せよ」
「こちら02、コピー」
 巨大な黒い物体が、その巨体をゆっくり滑らせ、滑走路に入る。
「飛行予定域に積乱雲を確認。中心気圧990hpa…飛行に障害なし…」
 翼長200mはあろうかという巨大な全翼機は、出撃の時を待ち、そのエンジンを暖気させていた。
「つまりこう言う事ですか?大佐…」
 格納庫の一室、オペレーションルームに集まったレイズ達は、今すぐにでも出撃出来る態勢に入っていた。
「超大型輸送機『スペクター』にHMAごと乗り込み、重要度の高い支部から順に巡回すると言う事ですか?」
「そうだ。今回の作戦、オペレーション『Migrant』は、襲撃を発見時、いかに迅速に展開するかが鍵となる。故に、機体には常時搭乗状態で待機し、展開時にはそのまま投下、戦闘を開始する」
「『オムツ』着用かよ…」
 ビンセントが吐き捨てる様に言う。
「大佐、質問なのですが…」
「何だ?」
「なんで艦隊規模での巡回をしないんですか?」
 グラムは一つ溜息。
「軍閥の面子を潰さぬように配慮した結果だろう…現に我が部隊にのみデフコン1が発令されている。もちろん空軍空中母艦に要請を出せば航空支援を受けることも可能だが、都合よくはいかんだろう」
「統合体の軍属連中なんてろくなもんじゃねぇな…」
「ビンセントさん!」
「準備次第、直ぐに出撃する。では解散…」
 こそこそとグラムに近寄るレイズ。
「すみません…大佐…何で彼女もここに居るんでしょうか?」
 レイズはアシェルを横目でちらり。
 グラムも、ちらり。
「…彼女だけ省く訳にはいかんだろ…?」
「そんな…絶対自分も行かせろと言いますよ?」
 小声で話すレイズとグラム。
 その二人の会話が終わらぬ間に、アシェルはグラムに呼び掛けた。
「大佐! 私も出させて下さい!」
「中尉! だから、ダメだって言っているじゃないですか!」
「実戦に勝る訓練は無い!」
「訓練って…!」
 誰かと同じような事を言うアシェルに、グラムは一瞬苦笑。
 そしてグラムは、アシェルを見据えて言った。
「フランクリン中尉」
「はい!」
「死ぬかも知れないぞ?」
「承知の上です! 死など恐れません!」
「死ねば全てを失うぞ? 人生も、自分自身も…愛する人間もだ。それでも出たいか?」
 アシェルは奥歯を噛み締めてから、決意を込めて答える。
「はい…!」
 グラムは一瞬目をつむり、アシェルに言う。
「予備の機体を用意させる」
「大佐!」
「ただし!」
 グラムは表情一つ変えずに、非常に冷淡な口調で彼女に言った。
「中尉が死亡した場合、我々サンヘドリンは一切関知しない。そのつもりでいろ…!」
 グラムはそう言い残し、部屋を出て行った。
 無言のまま敬礼で見送るアシェルとレイズ。
 アシェルは敬礼したまま、顔を強張らせていた。




************




「機体積み込み完了。作業02へ移行」
 三機のHMAが輸送機のカーゴに積み込まれ、中で機体がロックされた。
 輸送機のハッチが閉まり、出撃体制に入る。
「ディカイオス、輸送機への懸吊作業完了」
 ディカイオスを輸送するための特別仕様機が、滑走路に入った。
「ごめんね…サラ…今日は休日だったのに…」
「しょうがないですよ…レイズ…『みんな』のためですもの…」
 優しく微笑むサラ。
「よっしゃ。やっつけてやろうぜ。イオ」
 ビンセントは気合いを入れる様に言った。
「ちょっとドキドキします」
 イオは何度も深呼吸。
「彼女…大丈夫でしょうか?」
 エステルは心配そうにグラムに言った。
「彼女の事は、レイズが守るだろう…」
「何故…そう思うのです?」
「彼はそういう男だ」
「官制室、発進許可を」
「こちら官制室、スペクター01発進許可」
「こちら01発進する」
 輸送機は、爆発的な推進力で滑走路を滑走。
 やがてその巨体は、空へ舞い上がって行く。
「続いて02、発進許可。戦士達に女神の加護を!」
「こちら02、発進。管制塔、感謝する」
 滑走する02。ディカイオスを乗せた輸送機は、ゆっくり上昇していった。




************




[サンヘドリン第三支部通称『Third Necessity』]


「ふわぁ~…」
 画面を見つめる男性オペレーターは、退屈そうにあくびをした。
「今日もなにもなく順調、順調~」
 彼はコーヒーを一口。
 隣に座る同僚が言う。
「なぁ、ゼロセカンドが壊滅したらしいぜ?」
「しょぼい連中だなぁ…壊滅たぁ、人類の面汚しが…」
「ははは、違いないぜ」
「まぁ、この調子じゃ週末のデートには間に合いそうだな」
 画面上で光る小さな光点が一つ。
「ん? なんだ?」
「どうした?」
「重力波センサーに反応が…いや…消えた」
「誤作動だろ?」
「だよな…」
 二人はそう言って、いつもの作業に戻った。




Captur 2

[第三支部上空、高度18000ft]