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気の狂いそうになるくらい青い空。その光を十二分に受けて今は真夏のコンクリートジャングルにいる。汗が滝のように流れ服が透けて恥ずかしい。何でボクはここにいるんだろうか。そう、あの一言のせいだ。
「俺ばっかり毎月毎月血を見るのは不公平とは思わないか、なぁマオ?」
なんか不条理極まりないとばっちりだ。献血でもして血抜いてもらえだって。

冗談じゃない!
 
これでも注射の類は受ける必要のある奴でも受けないで通してきて、このシミ一つホクロ一つ無い滑らかな白い腕に注射針の後を付けろと?  薬中じゃないんだよ? そんな主張も民主主義のお家芸とも言える「アメリカ式外交(俗に言う棍棒外交)」を発動され頬を紅く腫らしながら献血に出かけたのが三十分前。今だってちょっと腫れてる。
「やっと着いた」
前にテレビで見た通りだ。そこではメイドが献血を呼びかけていた。やっぱり、普通に血抜かれるよりは何か面白い事ありそうな方を選ぶ、それにメイドとかちょっと興味あるけどカオルは嫌そうな顔するし、カフェには一人で行く勇気も無いけど、献血だから問題ないよね。そもそもカオルが行けって言ったしそれに、
「世のため人のために血流して来い!だもんね」
口にしてから気付いたんだけど、カオルは何で世のため人のため、に血流してるのかな、むしろ怪我なんてしてたっけ?
疑問は投げっぱなしにしといてメイドの所に駆けよる。

メイドさんに案内されるままにその救急車っぽい車の隣を通った時、えらくガタイのいいにいちゃんと一緒に居るクラスメートが見えた気がした。
新宿二丁目に居そうなガタイのいいにいちゃんは献血と黄色いパーカーに白く書いてあるからボランティアかなんかの人なんだろう、それにここにアイツもいるって事は献血か。実は身の回りで何気に献血ブームなのかな?
そんな事を考えながら狭い階段をメイドさんの揺れるお尻についていった。

そこに待っていたのは、痴呆一歩手前むしろ認知症気味なおじいちゃん先生。すごいぷるぷる震えてる。
「き・・みけ…血・・え・・き・・が…たは……?」
恐っ。なんか目尻に汗が溜まりそうだ。椅子をギィギィ鳴っているのが恐怖を煽る。
「え、えっとぉ、B型です」
するとぷるぷると振るえながら「そ…おかぁぁぁぁ…ビぃかぁぁぁ」
なんか死亡フラグ立ちそうだよ。
そして、いくつかの質問に答えたりして、ついに左腕にその針を刺そうという瞬間がきた。
おじいちゃん先生は独特な構えで注射器を握った。
それを見て思わずまぢですか?そんな言葉が出そうだったが、認知症だもん、末期なんだろう。それで採血できんのか?
疑問と恐怖で身動きできない嫌な時間が流れた。それでも無常にも針が近づいてくる。
あーもう駄目だ、そう悟った時その恐ろしい針は止められた。
「ちょ、それ注射器型シャーペンですよ」
リアルでやばかったみたい。助かったよ、メイドさん。
「朝から働き過ぎですよ先生。私が変わりますよ」
選手交代だ、助かった。
そう、その時はそれが救いと思えたが、そもそもここには献血に来てるのだ、イタいのが先送りになっただけだ。 

「痛くないですよぉ」
嘘付け!痛いに決まってんだろそんなん刺したら。
「大丈夫ですよ」
何が大丈夫だ。そんな太いので…
「ぬふぅぅ」
えっ?なんですかその掛け声?別の意味恐くなってきた。この人もなんかさっきの先生と同じく要注意人物だったかも。
掛け声を気にしすぎて痛みとかは感じなかった。これは新しい発見だ、今度カオルに話してみよう。
「もう少し経ったらまたヤるからね、それまでゆっくりしてて」
それだけ言って機械のある方へお尻を揺らしながら歩いていった。腕の脱脂綿がちょっと赤くなってた。
 
窓際の椅子に座り、帰りたいなぁと思いつつ結果待ちをしていると、隣のほうから何やら聞こえてきた。多分右に止まっている救急車っぽいのから聞こえてきたのだろう。何故わかるかって? そりゃ、クラスメートの声がするのだからあそこからと思うのが自然だろう。しかし、声がデカイな。
別に聞く気はなかったのだけど、聞こえたら気になってしまいついつい耳を傾ける。
その内容は腐女子脳を活性化させるには十分な内容だった。
 
「ところで俺のコレ見てくれ、こいつをどう思う?」
「すごく…大きいです…」
ナニの話をしてるんでしょうか? やっぱりアレの話でしょうか? やっぱり少し太いタイプなのでしょうね。
「なんだァ?今抜いたばかりなのにまた抜くってのか?」
本気であの車の中が気になってきた。
しかし、ここでさっきとは別のメイドさんがきた。
……この聞き耳は一旦終了だ。

さて、このメイドさんは豊満って評価を通り過ぎてふくよかって言葉がピッタリな人。差別的な発言かもしれないけど。いや、考え方を少し変えれば良いんだ、デブ専用メイドそう考えればそれもステータスかも。無理やり納得してまた痛い思いをしに行った。
「さっきのはどっちでした?」
それは××か××かって? ……いけない、脳の状態を普通に戻すんだボク、自重しろ。
大きく息を吸い十分に時間を掛けて息を吐き空気を吸う。当たり前かもしれないが、薬用アルコールの「臭い」がした。この「におい」は嫌いではないが「匂い」とは言う気がしない。それはさておき、いつも通りの思考モードに戻ってはっきりと答える。
「左です」
さっきの自分は何を答えるつもりだったんだろうか?いや、なんて言うつもりだったんだろう?
そんな考えはこのニードルラッシュの前じゃスグに吹っ飛んだけど。この人凄く下手だ。もう五回は刺してるんだけど。この頬を伝う熱いものはなんだろう。
「イタッ…」
おもわず漏れた一言が恐ろしい事を引き起こした。
「たかだか注射くらいで初めての時ように喚くなんて」
えっ?
この人はなんかのスイッチが入ったかのように芝居がかった言葉を紡ぐ。なんだこの豹変ぶりは?
口元をニィと歪めて謳うように言葉を羅列する、その行為に本質を見出すかのように。
「ここまで来て献血の本質がわかってないのか…はは、なんとも物わかりの悪い…」
なんですかこの人は、まるでSじゃないですか!普段はXLだろうに……いかん、あの逝っちゃってる眼を見てトラウマになりそうだったものだから現実逃避しちゃった。
ようやく血管に刺さった。腕が青くなってる、ちょっと涙目。
献血ってかなりスリリングな所ですね。

いろいろと衝撃的な所でしたが無事献血も終わり痛む右腕をさすりながら例のあの救急車っぽい車の横を過ぎるとまだ彼は献血をしてるようで彼らの会話が聞こえた。
「いいよ、いいよ。俺がまた献血してやるからこのまま出しちまえ」
あきらかに違反発言。
さっきみたいに腐女子脳を全開にする気力はないし本人に聞く勇気もない。
痛む右腕をさすって寄り道してから帰る。
夕日が赤い、電車に揺られながら川に反射した光を見てそう思った。川の流れを血管の流れに見立ててしまったあたりで立ちくらみ・・・倒れた。
気のいい人がいて助かった。席を譲ってもらった上に下車駅になったら起こしてくれた。ありがとうございます。
それにしても長い一日だった。

作品名:ブラッドリンク 作家名:浅日一