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同じ月を見てた

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夜10時。



あれは嘘だったのでしょうか。



私の空想だったのでしょうか。



























「ごめんね、こんなこと言っても、困ると思うんだけど」


乾燥した風が体温を奪うなか、彼女は頬を赤らめて
戸惑いながらも前置きして言われた言葉は
私にはとても素敵な言葉だったのです。



私も、いつも想っていました。
いつか伝えたいと。



同じように想っていた奇跡に
泣きたいくらいの喜びで胸がいっぱいで。



けれども私は知っていました。
彼女は私の兄上と婚約をさせられています。



彼女も知っていました。
だからこそ、伝えてくれたのです。



本当の気持ちは、私にくれると。
それ以外はあげられないけれど
それだけは私のものであると。



仕方がないのです。



歳の離れた兄上は優しかったけれど
勉学に忙しくなかなか構ってくれませんでした。
そのぶん彼女と私は幼いころから親しくしていて
寂しい時間はありませんでした。



兄上は立派に大学を出てお医者様になられました。
私と彼女が高等学校を卒業するころには
兄上はお医者様として安定していて
そろそろお嫁さん探しね、とお父様とお母様は言いました。



私は優しくて優秀な兄上が大好きでした。



しかし、お見合いの相手は私が小さなころから仲が良く
大好きで愛おしい彼女だと聞いた瞬間
つらくてつらくて仕方ありませんでした。
そのお話を聞いたとき、私はどんな表情で、どう返事をしたのか
まったく記憶にありません。



彼女もその話を聞いた時期は同じころだったのでしょう。
お互いが一緒にいても悲しい表情をすることが多くなりました。



彼女は可憐という言葉が似合うような
大人しそうな、儚そうな、
色白の肌と美しい漆黒の長い髪、ほっそりとして丸みのある身体で
とても決断力があって、行動力のある女の子には見えませんでした。



そんな彼女が私の腕をとり、つかつかと廊下を歩き
放課後の誰もいない中庭のすみへと行きました。



そこまで着くといつもの彼女の緩やかな表情に
少し頬を赤らめて、何度も練習したような口調で言いました。



「ごめんね、こんなこと言っても、困ると思うんだけど」



「私、あなたが好きよ。お見合いなんてしたくない」



ほかにもなにかを言おうとして
ぐっと堪えた彼女を見て、今度は私が彼女の腕をとりました。



「今日の夜8時。本当に私を選んでくれるのなら……」























いま、あなたはどこでなにをしているのでしょう。


わたしはもう、かえれません。


ふとみあげたそらには、まんげつにちかいつきで。


あなたもこのつきを、みあげていますでしょうか。


わたしをおもっていますか。


あにうえをおもっていますか。


かみにいのっていますか。






















次に逢うときは、月に近い場所で。




















    
作品名:同じ月を見てた 作家名:きゆ