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宵桜

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<宵桜>


真夜中に近い、夜の塔の島に人影は無い。
頭上には『桜祭り』と華々しく描かれた提灯が連なり、気ままに風に揺れる。
……実際に灯りを点すのは、味気なくも電灯だろうが。
「夜桜見物に行こう!今から!」
ほぼ”命令”の強さを持つ強引な誘いを、断る程の理由もなかった。
友人宅での呑み会の途中であったにも関わらず車を出し、遠路遥々、隣りの
市である宇治川へと向かう。
『呑み足りない』とのご要望を受け、コンビニで適当なワインを買う。
……栓抜きを持参しなかったので、蓋がキャップのテーブルワイン。安物だ。
紙コップを売ってなかった店に文句を言いながら、車を路上駐車し、塔の島へ。
幾ら桜の季節と言え、さすがに12時近くともなれば人手も失せ、露店も閉まる。
サラサラと降り出した細かな雨を避け、ブルーシートで売り物用の台を覆った
露店の一つに身を寄せる。
買ってきたワインを開封し、『不味い』だ『味がぼやけてる』だと、また散々に
文句を言い、笑いあい、回し飲みをする。
妙齢の女子が二人でフルボトルのワインをラッパ呑み。豪胆とも言える二人組に、
ちょっかいを出そうと言う無頼漢もいない様子だ。
「もし暴漢とか痴漢に襲われたら、どうする?」
「正当防衛の名の下、宇治川に蹴り入れる。女を力で服従させようなんて不逞な
輩に、手加減の必要などナイ」
そんな勇ましい会話が聞こえたのかもしれないけど
他愛もない話を、とりとめもなく喋って、ボトルを煽り、川の流れに耳を傾け、
咲き誇る桜を愛でる。
いつも、思う事がある。写真で見る桜の花は鮮やかなまでにピンク色なのに、実際
に肉眼で目にする桜は印象が異なる。むしろ”白い”のだ。夜目に見れば尚更に。
不思議なもんだな、と思いながら桜を眺める。
そして桜は”思索”を誘う。黙して見ているだけで、脳裏を言葉の波が打ち寄せ、
惑い、ざわめかせる。
生命とは、そこに現れ、消え去って行くだけの<現象>に過ぎない。そこに特別な
意味も価値も存在しない。ただ『在る』と言うだけで……
ああ、でもだったら――――
私は固く目を閉じ、思う。酔いのせいだけでなく、息が詰まって苦しくて。
何故、この胸はいつまでも癒えない哀しみに裂かれたままなのか。
命が真実『一つの現象』なだけであるなら、幼く無力だった子供は、己が左目の涙
を枯らさずに済んだ筈なのに。
「私達は――――何処へ、行くんだろうね」
そう問いかけたのなら、緩やかに波打つ豊かな長髪を傾け、友が笑った。
「さあ?行きたい場所へ、じゃない?」
気の利いた答えに、私は笑みを深くした。
「かもしれん」
首筋が痛くなるほど、頭上の桜を振り仰ぐ。無防備に晒された喉元、襟元から忍び
込む夜風は、ひやりと冷たい。
灯りに白く透ける桜花。妖しく、儚く、不気味で、美しい。
「――――」
声に出さずに呟く。いつか何処かで聞き齧ったその言葉は、桜にこそ似合いだ。
『何だ?』と目で訊ねる相手には『何でもない』とだけ曖昧に返す。笑う。

末期は夢よ。ただ狂へ――――……


Fin





作品名:宵桜 作家名:ルギ