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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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俺には、家庭教師がいる

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約5ヶ月前の俺は、相当に浮き足立っていた。

『ヒロの家庭教師は、水曜日からお願いしたからね。とっても美人よ~』

母親のその言葉を聞くまでは、家庭教師なんて冗談じゃないと思ってた。
けれど、現金なもので美人という言葉を聞いた瞬間に会うのがちょっと楽しみになった。
部屋を片付けて、意地を張るために教科書をちょっと読み直して、予習までしたのだ。

優しい美人な家庭教師のお姉さんとあわよくば大人の恋愛とかしちゃって・・・大学生のお姉さんと付き合ってるとか、めちゃくちゃカッコいい・・・!

というイメージは、授業一日目にして玉砕した。

なぜかって言うと、家庭教師は、男だった・・・。

「広也君だよね?初めまして。」

水曜日の夜、そういって右手を差し出した俺の家庭教師は確かに顔は良かったし、性格も優しそうだったけど・・・男だった。



そして、その出会いから5ヶ月後の今。
俺は見事高校合格をはたし、和生さんには家庭教師を続けてもらっている。

美人なお姉さんじゃないからって態度が悪かった5ヶ月前の自分を反省するほどに、成績はめきめきと上がって、それなりの高校に合格することが出来た。

最初の頃は、態度最悪しかもタメ口で話で本当にごめんなさい。でもいまさら敬語になんてできません・・・。
と言わなきゃいけないのだが・・・そのうち言おう。そのうち。


見事志望校から合格証書を受け取った俺は、春休みはめいっぱいゴロゴロするつもりでいた。しかし、現実はそう甘くない。
3月23日の新入生招集日、そこで手渡されたのは大量の教科書と宿題リスト。
しかも宿題って言うのは予習がほとんど。

家に帰って、おそるおそる新しい数学の教科書をひらいてみた。数学なのに、見慣れない文字がびっしりってどういうこと?
「こんなのわかるわけねーだろ!!何語だよ!?」
と部屋の中で思いっきり叫んでしまった。
そして外から笑い声が聞こえる。慌ててドアを開けるとそこには和生さんの姿。
俺の姿に気がついてもまだ笑ってる。
「ヒロは本当に面白いなあ。何語かって日本語だよ」
まだ笑い続けるその人を、部屋に入れずにドアを閉めた。
ドアを叩きながらゴメンと謝ってくるまでは開けてやらない。
その謝罪の言葉も笑いながらだったけど、まあ許してあげることにした。

宿題のリストと教科書を見せると、指の長い手が難しい問題をさらさらと解いていく。
いくら教師と生徒といっても、和生さんは大学2年で、実際の年齢は4つしか違わないのに。
正直、俺は高校を卒業して大学に入っても、こんな問題がすらすら解ける自信は全くない。
そんなことを何でもないことのようにやるこの人は本当にすごい人なんだと改めて思う。
俺の和生さんへのイメージは『優しそう』とか『勉強してそう』とかって感じだったし、その通りだった。
・・・最初のうちは。
でも、しばらくたって、仲良くなっていくと、結構ないい性格してることがわかってきた。


俺がそのことに気付き始めたのは、秋も深まってきた頃。
授業が終わって、和生さんを見送りに母さんがリビングから出てきた時、なぜかオレのことを見て噴き出した。
何だよ、ってきいても答えてくれなかったから気にしないことにしたが・・・その理由がわかったのは3週間後。しかも風呂に入ろうとしたときだった。
いつもなら何も考えずに洗濯籠に服を脱ぎ捨てるけど、そのときガサッと何か聞きなれない音がした。脱いだばかりの服を見てみたら、そこには『今日は大変よく出来ました』とかいたメモが貼ってある。
「何だよ、これ!?」
脱ぎ捨てそうになった服をもって母さんのところに行くと
「あら、3週間前からずっと和生くんはそうやってヒロの授業態度を教えてくれてたのよ?知らなかった?」
なんて言われた。
それを問い詰めたら
「ああ、ごめんごめん。実は一日だけの予定だったんだけど、ヒロが気づいてないみたいだからいつまで続くかなーなんて思ってね」
ごめんと口だけで謝ってるけど、絶対悪いなんておもっちゃいない。

しかし、実はこんなのまだまだ序の口だ。

何かっていうと、ものすごいセクハラ魔だ。
部活を引退してからは
『そろそろ筋肉落ちてきたんじゃないの?』
なんて言いながら、お腹とか背中とか触ってくる。
最初こそくすぐったかったけど、今はもう慣れてしまった。
順応ってオソロシイ。

まあ、でも和生さんだから許せるって言うか・・・。

結局のところ俺は結構あの人が好きだったりする。
フツーの意味で好き、っていうんじゃなくて・・・その、結構、特別に、好きって思ってたりするけど・・・。
だから・・・触ったりされるの、嫌じゃないどころじゃなくて、結構うれしかったりもするのだけど、それを言うのはなんか悔しいから、絶対何があっても口に出したりしない。



そして、いよいよ高校に入学した後の最初の水曜日。

「ヒロ、入学祝い、何がいい?」
「入学祝い?いいよ、そんなの。高校入れたの和生さんのおかげだし」
「たまにはカワイイこと言うね」
人がちょっと真剣にいうとすぐにこうやって茶化してくる。
「俺は真面目にいってるの」
「はいはい」
頭にぽんぽんって手を置かれる。
「でも、何か欲しいものあったら言っておいたほうが得だよ?あ、それか俺にしてほしいことでもいいよ」
「えっ・・!?」
ちょっと期待に粟立った自分を必死に落ち着かせる。
いやいやいやいや、まさかここで付き合ってくださいとかそういうコト言える訳ないじゃないか。落ち着け、俺。
そういうことはもっとお互いのことを良く知ってから。

・・・って、あれ?

よく考えてみたら、もしかして俺って和生さんのことそんなに知らない・・・?
学年と年齢と大学名とサークル・・・くらい、かも・・・。

手に持っていたシャーペンが机に落ちて、はっと気がついた。

「大丈夫?」
「俺、和生さんのこともっと知りたい」
その言葉は口から自然に出ていた。
だって、和生さんは俺のこといっぱい知ってるのに、俺だけ知らないなんて嫌だ。
「すごい殺し文句を知ってるなあ・・・」
そんな和生さんの呟きには気がつかなかった。
「うーん、それなら俺の家に来てみる?何の祝いにもならないかもしれないけど」
え、和生さんの家っ!?
「一人暮らしだから、何も気を使わなくて大丈夫だし」
ひ、一人っ!?
それは、何か、もしかして・・・イロイロ起こるかもしれないってことか・・・?
たいていどの漫画でもはじめてはどっちかの家って相場が決まってる。
早まりすぎだってわかってるけど・・・もしかすると、もしかするかもしれない・・・?
「ヒロ?どうしたの?」
「あ、な、何っ!?」
「何って、質問してるのはこっちだった気がするんだけどね」
「あ、そっか。行く!行ってみたい!」
「そう?よかった。じゃあ来週の日曜日、駅で待ち合わせしよう」
「うんっ!」
和生サンの家って、どんなだろう。
一人暮らしの家ってドラマとかでしか見たことないけど、やっぱり狭いのかな。

来週の日曜日か。早く来ないかな。