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FLASH

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「……沙織ちゃんは、どうしたいの?」
 広樹の言葉に、沙織は押し黙った。やがて静かに口を開く。
「私、なんだかいろんなことがあって、何も考えられなくて……でも思ったんです。ユウさんのことは、ずっとファンで憧れてて、この告白が夢じゃないかって思うくらい。もしそれが本当に本気だったら、私……ユウさんのそばに……いたいと思います……」
 沙織が言った。未だ動揺は続けているものの、これが一晩考えて出した結論だった。
「……鷹緒のことは、もう過去のことなのね?」
 苦しそうに俯く沙織に、理恵が尋ねた。沙織は小さく頷く。
「それももう、わからないんです……急に離れ離れになって、連絡もまったくなくて。あの時の気持ちが恋だったのかも、今はわからない……鷹緒さんは大人で、親戚で、だけど遠い存在で……もしかしたら、BBよりも遠い存在だったのかもしれないです……」
 沙織は思い悩んでいた。鷹緒との日々は遠く、あの頃の恋という気持ちが錯覚に思えてくる。鷹緒がいなくなってから、不安と寂しさの中で一人頑張ってきた沙織。そんなところに出てきたユウはいとも簡単に、揺れる沙織の心に入りこんでいた。
 広樹と理恵は、顔を見合わせた。そして広樹が口を開く。
「僕らは沙織ちゃんが後悔しないのなら、それでいいんだ。だけど、相手は大物なんだ。新人の君に良い影響をもたらすとは思えない……増える仕事もあるだろうけど、減る仕事のが多いと思うんだ」
 そんな広樹の言葉を、沙織は俯き加減で聞いている。広樹は言葉を続けた。
「それに君はまだ学生だし、学校への配慮も必要だろう? つき合うのは構わないけど、公表するのは待ってもらえないだろうか。もちろんそれは僕の方から、ユウさんや向こうの事務所と話すよ」
「はい……任せます。正直、本当につき合えるのかは疑問ですし、こうもマスコミに張りつかれてたんじゃ……」
 そう言って大きな溜息をつく沙織は本当に参っているのだと、広樹と理恵は深く受け止めた。
「そうだね……とりあえず、君からユウさんには返事をするといいよ」
「はい……ごめんなさい。迷惑かけて……」
「いや、いいよ。鷹緒もびっくりするだろうな。親戚の君が、こんな大物とつき合うんだから」
 広樹の言葉に、沙織は驚いた。
「鷹緒さんには……知らせないでください。何を言われるかわからないし……」
 沙織がそう言った。深い理由は見当たらないが、まだ鷹緒に知られたくはないと思う。
 そんな沙織に、広樹が笑顔で頷く。今後の苦労は目に見えていたが、沙織の想いを事務所として踏みにじるようなことはしたくなかった。
「うん、わかったよ。でも、よかったね、沙織ちゃん。憧れの人とつき合えて」
「……はい」
 まだ複雑ではあったが、沙織も微笑む。
 鷹緒への想いがどうなのか、今は沙織自身にもわからなくなっていた。しかしユウから告白を受け、沙織は確実に、そばにいるユウに傾きかけているのは事実であった。

 その夜、沙織はユウに電話をかけた。
『はい!』
 すぐに、ユウの声が聞こえる。その勢いは、まるで少年が好きな女性から電話を受け取った時のような、新鮮なものであった。
「あの、沙織です……」
『う、うん、どうしたの。大丈夫?』
「はい、あの……」
『……昨日の返事?』
 ユウが察して尋ねる。
「はい……」
『……うん』
 二人の間に、緊張が走った。そして沙織が口を開く。
「あの。ひとつだけ、聞いてもいいですか?」
『うん』
「ユウさんは有名だし、カッコイイし、それなのにどうして私なんかを……」
 沙織は疑問をぶつけた。
 全国規模のコンテスト準優勝者とはいえ、ユウが出会ってきたはずの芸能人たちと比べれば、自分は大した顔でも体系でもないことは自覚している。
『なんだ、そんなこと?』
 緊張する沙織に反して、電話の向こうから聞こえてきたユウの声は、呆れたような、明るく笑った声であった。
『人を好きになるのに、理由なんかないでしょ。そりゃあテレビに出てる芸能人みたいに、顔が可愛いければ可愛いほどいいかもしれないけど、そうそう自分と合う人間っていないよ。それに沙織ちゃんは可愛いじゃない。もっと自信を持ちなよ。シンコン準優勝者の君でも、そんな風に思うんだね』
 そんなユウの言葉は、沙織の不安を一気に吹き消したような、そんな気がした。
「ユウさん。私、ずっとユウさんに憧れてました。だから……本当に、私でよかったら、その……」
 言いにくそうに、沙織はそう言った。
『それって、もしかして……いいの?』
「は、はい……」
『やったー!』
 電話の向こうで、ユウが絶叫する。本当に嬉しそうだ。
「ユ、ユウさん?」
『あ、ごめん。なんか一人で盛り上がっちゃって……でも、よかった。フラれるんだとばっかり思ってたから……』
「そ、そんな……」
 嬉しそうなユウに、沙織も微笑む。恥ずかしさと嬉しさが混じり合う。
 やがてユウが尋ねてきた。
『でも、事務所の人には言ったの? 大丈夫?』
「あ、はい。うちは恋愛とか自由なんで……でも相手がユウさんだから、新人の私にはいろいろ不利だろうって。だから、公表は……」
 沙織の言葉を聞いて、ユウは静かに口を開く。
『そうだね……まだ沙織ちゃん、学生だもんね。わかったよ。僕も忙しいし、あんまり二人きりで一緒にいるとかは、実際出来ないと思うんだ。事務所の人の意見は正しいと思うし、時期が来るまで公表は控えようか』
 すべてを察してユウが言った。その心遣いが、沙織はとても嬉しかった。
「ありがとうございます……」
『いいよ。僕は君とつき合えるってだけでいい。でも、あんな記事書かれたんだ……何かあった時も、これからは堂々と君を守れる』
 まるでラブソングを囁かれているように、沙織の心は解されていった。

 その日から、沙織とユウの秘密の交際が始まった。しばらくマスコミの目から離されることはなかったが、実際にユウが沙織と会っている暇もないほどに忙しかったため、その報道は次第に激減していく。それと同時に噂も消えるようになり、沙織も以前と同じように仕事を続けていった。
 また、ユウが心配していたような過剰な報道もそれほどなかった。沙織は学校の同級生などから、真相を聞かれたりはしたが、答えられるはずもない。
 沙織とユウは、二人きりで会うことなどほとんど出来なかったが、毎日のメールや電話のやりとりで、その交際を続けていった。


作品名:FLASH 作家名:あいる.華音