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FLASH

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「そらみろ。おまえら十代の恋愛なんて、くっついたり離れたり、忙しない一時の感情に任せての恋愛だろ? そういうのは、恋愛とは言わないの」
「誰のせいで別れたと思って……」
「……俺のせい? まさか、あの時のことが原因で?」
 驚いてコーヒーカップを置きながら、鷹緒が尋ねた。
「ううん。それだけじゃないけど……まあ、もういいの。バイトでもして、新しい彼氏見つけるわ……」
 反論出来ない沙織が、諦め顔で笑って言う。
「バイト?」
「うん。さっきトモが言ってたの。新しい出会いは、バイトだって」
「……出会いはないかもしれないけど、バイト探してるなら、うちの事務所手伝えよ」
 鷹緒が言った。
「なによ。手伝えよって……」
「ミーハーなおまえに合ってる」
 その言葉に、沙織は赤くなる。
「そりゃあ、ミーハーだけどさ……」
「まあ考えといて。今、ちょっとゴタゴタしてて忙しいのに、バイト募集してる暇もないんだ」
「へえ。繁盛してるんだ」
「まあな……じゃ、そろそろ行くよ」
「うん……」
 二人は喫茶店を出て、別々の方向へと分かれた。

 数日後。学校帰りの沙織は、久々に鷹緒の事務所へと向かった。
「あれ?」
 しかし、事務所に家具はなく、空の状態である。
「ああ、沙織ちゃん?」
 来客に気付いて、奥から広樹が顔を出した。沙織は驚いて、辺りを見回している。
「ヒロさん。これは……?」
「ああ、引っ越ししたんだ。鷹緒から聞いてない?」
「聞いてません。全然……」
「そう。うち、社員も増やして、本格的に事務所拡大を図ろうと思ってね。よかったら沙織ちゃんも、うちでバイトしてよ。土日だけでもいいからさ」
 広樹の言葉に、沙織は笑う。
「それ、この間、鷹緒さんにも言われましたよ」
「そっか。駄目かな? 事務所が落ち着くまででもいいからさ……」
 拝むようにしている広樹の姿がおかしくて、沙織は苦笑いした。
「いいですよ。私に出来ることなら……暇ですし」
「本当? よかった、ありがとう。まあ僕としては、君にはモデルをして欲しいんだけど……そうだ、君宛のファンレターが、いくつか届いてたと思うよ」
「ファンレター?」
「うん。国民的な雑誌に、あれだけ大々的に載ったからね。反響も大きかったんだ。ごめんね、バタバタしていて、連絡しそこねてたよ。新事務所の方に行っちゃってると思う……」
「えー! ファンレターなんて、どうしよう……」
「あはは。僕はもう少し、こっちで後処理しなきゃならないんだ。新しい事務所は近いから、そっちに行ってみてよ。鷹緒もいると思うから」
 そう言って、広樹は事務所移転のお知らせの紙を、沙織に差し出した。
「あ、いえ。近くまで来たんで、ちょっと顔を出してみただけですから……」
「まあ、いいじゃん。牧ちゃんも、会いたがってたよ」
 忙しそうな時期に行くのは気が引けたが、沙織は頷いた。
「あ……じゃあ、行ってみます」
「うん、また気軽に来てよ。バイトの件も正式に頼みたいし。それは鷹緒と話してくれてもいいし、僕ももうすぐ行くから、そこでもいいよ」
「わかりました」
 沙織はそう言って、地図の示す場所へと向かっていった。

 新しい事務所は、旧事務所から五分くらいのところにあり、七階建てオフィスビルの三階にあった。
 沙織が事務所に入ってみると、そこはまだ騒然としていて、旧事務所の倍以上の広さに見える。
「どちらさまですか?」
 そう言って、奥から女性が出てきた。沙織はその女性に見覚えがあった。いつか写真で見た、鷹緒の前妻である。
「あ……」
 思わず沙織は、言葉を失った。
「どうしたの? 何の用かしら?」
「あの……間違えたみたいです。すみません」
 沙織はそう言って、すかさず背を向ける。鷹緒の事務所に、前妻がいるはずがないと思った。
「あら、沙織ちゃんじゃない! 久しぶりね」
 そこに牧が気付いて、沙織に声をかけてきた。
「牧さん……じゃあ、ここが新しい事務所?」
「なんだ。牧ちゃんの知り合いだったの?」
 女性が言う。
「いえ、鷹緒さんの親戚の子なんですよ」
「え? 鷹緒さんの……?」
 女性もまた、沙織を見つめる。そんな沙織は、目を泳がせるばかりだ。
「ええ、小澤沙織ちゃんです。この子には、何度も助けてもらってるんですよ。今年の忙しい正月にも仕事手伝ってもらったし、キャンディスでモデルが足りなくなった時も、この子が出てくれて……ヒロさんが、沙織ちゃんにモデルになってほしいって、ずっと言ってるんですよ」
 牧がそう説明する。女性は笑顔で頷き、沙織を見つめた。
「そうなの。はじめまして、私は石川理恵といいます。今回、ヒロさんと一緒に、この事務所を共同経営することになったの。よろしくね」
「は、はい……」
 沙織は理恵と名乗った女性から、目が反らせなくなっていた。理恵はすらりと背が高く、本当に美しい顔立ちをしている。なにより、ほんのり香る香水に、大人の女性という感じが漂う。
「理恵」
 そう言って、奥から鷹緒が出てきた。
「ちょっと、気安く呼び捨てにしないでください」
 理恵が言った。鷹緒は変わらぬ表情のまま、口を曲げて理恵に近付く。
「悪かったな、副社長……それより、さっき預けたフィルムどこやったんだよ」
「え? 机の上に……あ、ここにあった」
 ポケットからフィルムを出して、理恵が言った。
「ったく……おう、沙織。今、ヒロから電話あったぞ。バイトしてくれんだって?」
「え、あ、うん……」
 沙織は戸惑いながら、鷹緒を見つめる。様子の違う沙織に、鷹緒は首を傾げた。
「なんだよ。どうした?」
「べ、べつに……」
「変なやつだな」
「まあまあ、ちょっと休憩にしましょうよ。お茶入れてきます」
 牧はそう言って、給湯室へと向かっていった。残された三人は、近くの応接スペースへ向かう。
 対面式に置かれたソファに、沙織は奥の席を勧められ、鷹緒と理恵は隣同士に座った。
「あの……お二人は、もしかして……」
 気まずい空気の中、沙織が意を決して尋ねた。鷹緒と理恵は、お互いの顔を見合わせる。
「……元夫婦?」
 鷹緒が言った。
「バラさないでよ」
「こいつ、知ってるよ」
「あ、そうなの?」
 二人のやりとりを、沙織は呆然と見つめていた。


作品名:FLASH 作家名:あいる.華音