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Minimum Bout Act.04

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No.12「契約」




 

 「本っ当に呆れるわね……」
「お前、退院してきた人間にそりゃねーだろ。ほんっとに可愛気がねえなあ」

 ルーズは、目の前でぐるぐると両腕を回してストレッチをするカッツの姿に、心底呆れたように言った。
 地球で大けがを負ったカッツは、ルーズの予想を遥かに上回るペースで回復し、予定より3日も早くベニーランドに戻る事が出来た。
 それからすぐにトレインのいるドルクバへ行き、大きな病院へ入院させること4日。
 医者からもう帰ってくれと言われるほど元気になったカッツは、今朝めでたく退院して来た。
 帰ってきたかと思えば、直ぐさま旺盛な食欲でルーズが作った食事を平らげ、何やらやらかす腹づもりらしい。

「いい年した女に可愛げを求められても困るんだけど」
「うるせー。そういやセイラがもうじき来るんだろ?」

 カッツが食べ散らかした食器を片付けながらツッコミを入れるルーズの背中に向かって尋ねる。
 ドルクバ警察に保護されたセイラは、多少衰弱していたものの怪我などもなく無事だった。
 しかし記憶が曖昧で、連れ回した連中の事などの詳しい情報を警察に話せなかったと言う。
 カッツを病院に放り込んだシンやルーズがセイラに会いに行った時、シンの顔を見た瞬間に泣き出してそれはもう大変だった。
 変な薬を注射され、意識が朦朧とする中であちこち連れ回されていたらしい。
 しかしシンは腑に落ちなかった。
 数日セイラを連れ回してドルクバに捨てるくらいなら、最初から拉致しなければ良かったはずだ。それを殺しもせず、ただ地球から連れ去ったというのは何かおかしい。
 そう考え、地球で会った連中とセイラが動いたであろうルートを調べるため、シンは今一人で行動をしている。
 そして今日はカッツの退院という事もあり、セイラが政府関係者と共にここベニーランドのMB基地へやってくると言うのだ。

「今日は政府の関係者も一緒に来て地球での事を聞きたいらしいから、よろしくね」

 そう言い残し、ルーズはキッチンから出てきて階段に足を掛ける。

「って、おい! お前どこ行く気だっ!?」
「え? えーと……シンの手伝い?」
「嘘吐くな! セイラが来るから逃げようってんだろ!」

 半分当たっていた。
 カッツが一命を取り留めた事を知ったセイラは、面会謝絶というにも関わらず病院に行って大騒ぎをした。
 それを止めていたのがシンとルーズなのだが、ルーズと初対面したセイラはいきなりルーズの顔を平手打ちした。
 目の前でカッツが撃たれたのを見たセイラは、不甲斐ない自分と、自分が知らない間にカッツの側にいたルーズへの嫉妬心から訳が分からなくなり、ルーズを叩くという暴挙に出たらしい。
 最初からルーズが地球へ同行していたらこんなことにはならなかったかも知れないと、カッツが怪我をした事をルーズの所為だとものすごい剣幕で怒鳴った。
 暴れるセイラをシンが抑え、病院だった事もありそのまま鎮静剤を投与されて眠るセイラの姿を見た時、ルーズは激しい罪悪感に襲われた。
 シンはそんなのは結果論だと言ってセイラの言葉を鵜呑みにしないようルーズを気遣ってくれた。しかしルーズが一緒に地球へ行っていれば、事態は変わっていたかも知れない。そう考えると、セイラの怒りは間違いでないと思えた。
 そんな事があったため、ルーズはセイラと顔を合わせるのを控えようと決めていたのだ。

「私がいると色々面倒になるから、任せるわ」
「あ、おいっ!」

 一瞬悲しそうな顔をしたルーズに、カッツはそれ以上何も言う事が出来なかった。
 ソファに腰を降ろし、頭をガシガシと掻いて壁を睨んだ。




 ****



 外に出たルーズは、歩き慣れた瓦礫の道を身軽に進みながら、携帯型端末が受信したデータを開く。

「またドルクバか……」

 そう呟いて、ドルクバ行きの飛行船のチケットを手配した。
 シンが一人でセイラと組織の足取りを追っているが、今の所のまだはっきりとした情報は入手出来ずにいるようだ。
 取りあえず合流して、何らかの手がかりをつかみたい。


 ルーズ達が住処にしている廃ビルはベニーランドの外れにあり、そこから少し歩けば薄汚れた下町が広がっている。
 狭い路地には無機質なコンクリート造りのアパートが建ち並び、たくさんの人が歩いていた。

「おい、ルーズ!」
「ブルース?」

 丁度ブルースの店の前を通りかかると、中からブルースがフライパン片手にルーズを呼び止めた。
 いつもより少し神妙な顔をしてカウンターから出てくると、小声で

「いい酒入ったぜ」

 と言った。
 ルーズは辺りを見回し、カウンターの一番端へと腰を降ろす。

「どうしたの?」
「カッツは退院したんだって?」
「ええ、おかげさまで。もう少し怪我してくれてたら静かだったのに」
「あいつは座ってるだけでうるさいからなあ」

 そう言って力なく笑うと、そっとルーズの前に小さいカードを差し出した。
 ルーズはそれを見てピクリと眉を動かす。

「お前、一体何やらかしたんだ? これを持ってきた男だが、あらあ本物の人殺しの目だったぜ……」
「どういうこと?」
「名指しでお前を指名してこいつを渡すように頼まれたんだ。絶対にルーズ以外のヤツに渡すなってな」
「そう……この間あちこちのパチンコ屋でボロ勝ちしちゃったから、目をつけられたのかしら?」

 はあ。と深いため息を吐くルーズに、ブルースが苦笑する。

「ほどほどにしとけよ。カジノで大勝ちしてヒットマンに殺られるならまだしも、パチンコじゃ箔がつかねえからな……なんて冗談言ってる場合か。本当に大丈夫なんだろうな?」

 よほどこのカードを持ってきた男が強烈だったのか、ブルースは心配そうに言う。
 ルーズはいつものように飄々とした顔でカードをポケットに仕舞うと、椅子から立ち上がった。

「大丈夫よ、別にイカサマやって勝った訳じゃないんだもん。心配してくれてありがと」
「ならいいけどよ。あ、今度退院祝いにカッツのヤツに飯おごってやるって伝えといてくれ!」

 店の外へと歩いて行くルーズの後ろ姿にそう声を掛けると、ルーズはチラリと目だけでブルースを振り返り、手を挙げて去って行った。

「ルーズのやつ、無理してなきゃいいんだがなあ」

 ぼそりと呟き、ブルースは気分を変えて新しく来店した客を迎え入れた。



作品名:Minimum Bout Act.04 作家名:迫タイラ