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カイトとマスターの日常小話

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マスターは犬を飼いたいみたいです。







 カイトと俺は何と言うか、端から見ればどう見えるんだろうか?

 …と、たまに思う。まあ、見たままを言えば、30過ぎのおっさんと見目麗しき美青年に見えるんだろうが…。
普通に結婚して、子どもが出来てたらこんな感じなのかと思う。カイトとのコミュニケーションは。
カイトの見た目は二十歳前後。…でも、言動はほぼ子どもと違わない。…まあ、俺なんかよりしっかりしているけれど、起動して半年経つが、今の生活にまだ慣れた訳ではなさそうで、好奇心からとんでもないことをやらかしたりする。それも、学ぶことになる。…生体VOCALOIDであるカイトのプログラムは環境や経験によって成長する。素直な伸びのある歌声に惚れたマスターの俺は、カイトに素直に健全に健やかに成長して欲しいと望んでいる。だからか、カイトと過ごす日々はまるで子どもの成長過程を追っているようだ。子どもに接するように上手く出来たら頭を撫でてやったり、アイスを零して汚れた口を拭ってやったりとか、親子のようなスキンシップをとっている。カイトが成人男性のフォルムではなく、少年のフォルムだったら、本当に仲睦まじい親子に見えるかもしれない。

一生懸命に歌うカイトを見ながらそう思う。

曲の最後のフレーズ歌い終わったカイトが「どうでした?」と期待と不安を滲ませて俺を見つめてくる。歌は俺の期待をいい意味で裏切り、とても心地のよい、カイトらしい素直で伸びのある明るい声がイマイチな出来の曲のイマイチな部分をカバーし、満足いく出来に仕上がった。
「良かったぞ」
俺とそう変わらない図体のカイトの頭を褒めつつ撫でてやると、カイトは嬉しそうに微笑んだ。…もし、カイトに尻尾が生えていたなら、その尻尾は千切れんばかりに振っているに違いない。…親子じゃなくて、飼い主と犬…かもしれない。
(…犬、か…)
…時間も出来たし、家は持ち家、庭もある。…昔、みたいに犬を飼うのもいいかもしれない。カイトの情操教育にもなるんじゃないだろうか?…毎日、散歩に行くようになれば、最近、緩んできた腹も少しは元に戻るかもしれない。
「…犬が飼いたいな…」
飼うなら、昔飼ってたゴールデンレトリバーみたいな大型犬がいい。カイトを撫でつつ、そういうことを思っていると、突然、カイトが俺の腕を掴んだ。
「犬、飼うんですか?」
「…へ?」
思っていたことが口に出ていたらしい。カイトが咎めるように訊いてくる。
「…いや。飼いたいな…とは、思ってるが…」
そう言うと、カイトは不満そうに口をへの字に曲げ…初めて見るカイトの拗ねたような表情に、俺は思わず目を奪われる。
「嫌なのか?」
そう訊くと、
「…嫌です…」
小さくカイトが言った。
「お前、犬、嫌いだったけ?」
そんなはずはない。カイトは買い物のついでに公園に寄るのを何よりも楽しみにしている。散歩で出会う黒柴の子犬と気が合うのか大の仲良しなのだ。そして二匹でいつもじゃれあい、芝生の上を転がりまわるのを飼い主の老紳士と俺は談笑しながら見ているのだから。
「嫌いじゃないです。むしろ、好きです」
カイトが言う。
「じゃあ、いいじゃないか」
俺がそう言うとカイトは眉を寄せた。
「駄目です」
「…どうして?」
問うとカイトは言いづらそうに口を噤んで、俺を見つめた。
「…だって、マスター、僕を構ってくれなくなりそうだから…」
じっと蒼い双眸にひたりと見つめられて、ああ…と、息を吐く。…確かに構ってやらなくなるだろう…子犬は可愛いし、俺はひとつのことにしか集中できないから…。カイトの言う通りになりそうだ。
「…お前は言うことが、本当に可愛いな」
まだ飼ってもいない犬に、俺を取られると思っているらしい。…と言うか、カイトに嫉妬という感情があったことに驚く。…俺が思っているよりも、カイトは色んなことを学んでいるのかもしれない。…掴まれて右手は自由にならないので、左手で撫でてやる。…カイトはずるずると膝を折り、俺の右手を頬に摺り寄せ、膝に頭を凭せた。
「…わがまま言って、ごめんなさい。…マスターが本当に飼いたいなら、僕は何も言えないですけど…もう少しだけ、僕だけのマスターでいてください…」
…そんなこと言われて、犬を飼うなんてことが出来るわけがない。緩んだ右手で不安そうなカイトの頬を撫でる。カイトは目を細めた。
「…お前がもう少し大人になったら、考えることにする…」
「…そうしてください…」
すりすりと身を寄せて、甘えてくるカイトは当分、親(マスター)離れ?出来そうにない。俺もまた然り…。当分、それもいいかと思う。…忘れていたが、VOCALOID中一番、マスターに忠実で従順…下手すればとんでもない方向に傾倒してしまうのが、KAITOなのだ。…ヤンデレだけは、御免だ。いつ地雷を踏むかなんて怯えながら、暮らしたくはない。カイトには今のまま、素直に育って欲しい。俺の大好きなその声のままに。
「…カイト、何か歌え」
俺が強請ると、カイトは今、覚えたばかりのメロディーを柔らかな声に乗せた。その声を聴きながら、カイトの頭を撫でてやる。



その日の午後はうららかにゆっくりと過ぎていった。





オワリ