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鳥の如く

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外は雨。
その絶え間なく降る音が部屋の中にいても耳を打つ。
満開の桜が散らされる様が、寺島忠治郎の脳裏に浮かんだ。
花散らしの雨か。
このひとが残念がるだろう。
そう思いながら、布団に身を横たえている久坂義人の整った顔を眺める。
昨日の昼過ぎから寝こんでいるらしい。
らしい、というのは、そのころはまだ寺島は京に向かっている途中で、夜になって到着して訪ねた相手が病に伏せっていることを知ったからである。
久坂は高い熱があるようで、起きたかと思うと咳きこみ、意識はもうろうとしていて、そばにいるのが寺島であることを認識しているかどうかあやしい様子で、ふたたび眠ってしまった。
今は、昼過ぎである。
これで久坂は丸一日こんこんと眠り続けたことになる。
ふと。
その閉じられたまぶたが動いた。
ゆっくりと開かれる。
眼が向けられた。
「……寺島?」
「はい」
久坂が眼をそらした。
なにか考えているようだ。
おそらく、今の状況についてだろう。
久坂は布団から身体を起こした。
そして。
「ごめん」
頭を垂れた。
「どうして謝るんですか」
「脱藩してきたんだよね?」
「はい」
藩命を受けて京に来た久坂とは違い、寺島は藩許を得ずに京に来た。
無許可で藩の領地から出て管轄から離れた。
つまり脱藩である。
脱藩は主君と家臣の主従関係への裏切り行為と見なされ、重罪だ。
もちろん寺島はそれ相応の処分を藩から下される覚悟で清州を出立した。
「藩の許可がおりないだろうことがわかったうえで追ってこいって言った僕が、こんな状態で……」
「謝らなくていいですから、寝てください」
また謝罪の言葉を口にしそうになった久坂を、寺島はさえぎった。
追ってきたのは自分の意志だ。
作品名:鳥の如く 作家名:hujio