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世界が終わる夜に

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 僕たちの行為に、一体何の意味があったのだろうか。愛なんてものはもちろん、なくて。(だってあんなに暴言を吐かれるセックスって、聞いたことない。)好奇心より、恐怖心がおおきくて。そもそも、僕らは一体何なんだ?恋人同士じゃない、友達ですらない、クラスメイトとすら呼ばれていない。僕たちの間には彼女からの一方的な暴力しかない。そんな僕らが、セックスをするなんて。世界は、こんなにも不思議なもので満ちているのか。

「私の初めてのセックスは、中2のときだった」
 小3で親が離婚して、母親に引き取られた彼女は、母子二人ながらもお互い助け合い、励ましあい、努力し合いながらどうにか二人やってきた。中1のとき、母親が再婚するまでは。
「優しそうな人だった。でっぱったお腹が、ちょっと気になったけどね」
 母はまだまだ健康的で美しく、バリバリと働く女性だった。母が働きに出る姿は、彼女の誇りだったそうだ。そんな母も、やはり女で、一人じゃ寂しかったんだ。母が連れてきた男は母より一回り以上も年上で、中年を超えて初老に近かった。白髪交じりで、頭頂部の薄い頭を見て彼女は、我が目を疑った。大好きで最も尊敬する母が次に選んだ男が、これだなんて。彼女は母を「母」と思うことをやめた。彼女の目に映る母は、ただの寂しい女だった。男は彼女の名前に「ちゃん」を付けて呼んだ。不気味な馴れ馴れしさに彼女は男を不快にしか感じられなかった。

 彼女の指先が、僕の胸元をじれったくくすぐる。痛くないけど、薄く肌を引っかく爪が、焦らすように僕の胸をぐるぐるとまわった。彼女は僕を見ているようで、何も見ていなかった。ただ、ぐるぐるぐるぐると、指先で弧を描いて楽しんでいた。無邪気な、子供のような瞳で。

「母が忙しくなって、あまり家で会う機会がなくなっていった。ご飯も、適当に冷蔵庫で漁って、適当なものばかり食べてた。そんな頃だった。」
 学校から帰ると、例の男がもう帰ってきていたんだって。早いなーって思って、でもそれ以上には何も思わなくて、彼女は真っ直ぐ自分の部屋に向かった。ら、
「お酒を、飲んでいたんだと思う。すごく臭かった。加齢臭って、ああいうのを言うんだって思った」
 彼女の部屋にいきなり入ってくるなり男は、彼女をベッドに叩き付けた。ひどく興奮していて、息が豚か猪みたいに荒々しかった。ぶつけられたのは、理不尽な怒りだった。
「『おまえはただいまも言えないのか!』・・・・・だって。うん、確かにそれは、私がいけなかったの、かなあ」
 そこから先は、あまり、想像できない世界だった。せいてきぎゃくたい。まだ幼い彼女の心には、一生消えない深い傷を刻み付けられたのだった。

「いっぱい泣いた。何回、包丁を自分の手首に当てたかわからない。でも、できなかった。痛いの、怖くて。あんな目にあったのに、私、痛いのが怖かった」
 それは違うよ。きみは、痛いのが怖かったんじゃない。死ぬのが、怖かったんだ。

 普通の男の子とセックスするのは久しぶりだ、と彼女は笑った。笑い事じゃないのに、無理して笑ってた。彼氏とか、いたことあるみたいだけど、やっぱりセックスは、怖かったんだって。男の人に触られるのが、怖くて怖くてたまらなかったんだって。だから変わりに、こういう、僕みたいな男を見つけては、影でこっそり苛めてたんだって。自分にされた暴力を、自分が負った深い傷を癒す方法を探したら、そこにしか行き着かなかったんだって。僕は泣いた。子供みたく声を上げて、鼻水もたらして、想像でしかわからない彼女の過去を思って、ひたすらに泣いた。彼女みたくうつくしく泣ければよかったのに。

 縋りつくように、いや、むしろ本当に縋りついて、泣いた。裸の彼女の膝は、細っこいのに弾力があってやわらかかった。これが女の子の感触なのか。数時間前まで想像の世界でしかなかったパンツの奥の茂みに何度もキスをして、僕の顔を見下ろして笑う彼女の唇にもキスをして、屈み込んで僕を見つめる彼女の、ゆれる乳房に頬を寄せて。彼女は、なんて愛しい生き物なのだろうと思った。僕はあまり頭がよくないから、正しい知識かはわからないけど、傷を負って、人を、僕を傷つけて、それ以上に自分が傷つく彼女は、マリアさまより尊い存在なのだと、思った。処女が、なんだ。処女はきれいで、それ以外はきれいじゃないというのか?そんなわけあるか。たくさんの傷を受けたはずの彼女はこんなにも美しく、とてもまぶしい。傷つけられる痛みを、傷つける痛みを知る彼女はこんなにも、儚い。だから僕は、泣いた。人を傷つけてでしか自分の傷を癒せなかった彼女のために、僕はただ、ひたすらに泣いた。

「ごめんね、たくさん傷つけたね。痛い思いをさせたね。でも、それも今日で、最後だから」

 目が覚めると、彼女は何処にもいなかった。僕の部屋には僕一人だけで、それはひどく当たり前のはずなのに、僕はそれを当たり前には思えなくて、部屋の真ん中にぽっかりと空いたミステリーサークルは、彼女の存在を確かなものにはしてくれなかった。脱ぎ散らかした衣服も、彼女も、温もりすら、なくて。

 僕は学校へ行った。「クラスメイト」すらいない学校へ、行った。僕を除いたクラスは、ひどく騒がしかった。唯一空っぽの空席に、クラス中の視線が注がれた。

『今朝早く、XX県XX市XXの住宅街の一角で、男性の遺体が発見された。男性は職業不定、XXXXXX(61)。遺体発見時、男性は何の衣服も身に着けていなかった。通報者は男性の義娘(17)。男性と少女には性的関係があった模様。警官が駆けつけた際、同じく少女も何も身に付けていなかった。男性の死因は喉元を包丁で切られたことによる失血死と断定。尚、その少女の手首にも深い傷が付けられており、警察は少女が男性の首を切りつけたあと、自分自身の手首を切りつけ、自殺を図ったものだと推測し、被疑者死亡と断定し書類送』・・・・

 クラスは朝からその話題で持ちきりだ。携帯のワンセグ機能で十数人の生徒が食い入るようにニュースを見ている。クラスのムードメーカーが声高に「クラスメイト」の少女の名前を連呼し、囃すようにことの事態を繰り返す。少女の友達は声を上げて泣く子もいれば、蔑んだ眼差しで黙々と新聞の記事を読む子もいた。
 僕は彼女と「クラスメイト」ではないから、唯一傍観者的な立場でこの場に居合わすことができた。消え去った温もりに彼女がいたという証拠がないから、やはり僕と彼女はただの他人でしかない。教室という同じ空間で同じ生活を繰り返したはずなのに、「クラスメイト」にすらなれない僕が、どうやってこの騒ぎの中に混ざれようか。
作品名:世界が終わる夜に 作家名:ばる