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Gothic Clover #01

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 ボクこと、首廻捩斬(くびまわり ねじきれ)は、ちょっとした面倒な事件に五日程前だろうか、あってしまったのだ。
 ボクは四時頃、どの部活にも入る気がしないので、仮入部などせずに帰路に着いていた。
 学校から駅までの道程の中、ボクはフラフラと歩いていたら、
 突然
 でも当たり前の如く
 まるでそれが自然の事のように
 異臭がした。
 これは、ボクがこよなく愛する死の匂いだ。
 ボクは周辺をくまなく探索した。そして見つけた。
 無人の工場跡地、
 眼球が無い屍体を見つけてしまった。
 その屍体が身に着けている服には見覚えがある。ボクと同じ、山舵学園の制服だ。しかしそれはボクとは違う、女子の物だった。
両手両足は布で縛られている。口には猿轡がされている。死因は喉にあるその一閃の傷口みたいだった。ボクはその屍体をよく調べてみたが、残念な事に生徒手帳は見つからなかった。ついでに本来その頭にある二つの穴にあったはずの眼球も探してみたが、どこにも見当たらなかった。
 しばらく眺めた後、ボクは屍体を後にしてその場を去って行った。
 こうして、ボクはその屍体の第一発見者になったのだった。いや、確かに第一発見者はボクだが、第一発見者とされたのは近所の小学生であり、面倒な事に巻き込まれる事を恐れ、屍体を見つけた後に誰にもそのことを言わずにすぐにその場を去ってしまったボクのはずがあるわけがなかった。
 実は屍体を見るのはこれが初めてではない。
 死臭も、血も、肉も、内臓も、見飽きるぐらい見つめたことがある。
 お陰で今でもボクは平常心でいられている。
 ボクにとって人生最初に見る屍体となった友人に、少し感謝しなくてはならないようだ。

 ふいに視線を感じた。
 視線を感じた方向を見てみると、一人の女生徒がボクを見ていた。
 「誰だ?」とか思う前に、ボクは目を奪われた……この表現が一番合っていると思う。
 まさに眼球の自由を奪われて、その方向しか見ることができなくなるのだ。
 死んだように白い肌
 黒く長い髪
 ほっそりとした体躯
 でも、これらの表現はただの口実に過ぎない。
 ボクが一番目を惹かれたのはその同じくボクの目を見ている瞳であった。どす黒く澄んだ絶望を連想させるその目にこそボクは目を奪われたのであった。

「おい、首廻」

 自分を呼ぶ声で我に帰った。
 前を見ると先生がボクを見ていた。

「え〜っとごめんなさい。話全然聞いていませんでしタ」
「入学そうそう、そんなんじゃ困るよ」

 ハッ 教員のくせにいちいちうるさいんだよ。
 とりあえず、適当に謝っておく。
 もう一度その女生徒の方を見たが、その彼女はもうこちらを向いてはいなかった。


 昼休み、ボクは桐馘と屋上で弁当を食べながらボクが見た眼球の無い屍体のコトについて話していた。
 ちなみに掻太には本当のコトは言ってある。

「それじゃお前、その死体触ったのか?」
「そうだけド」
「どうだった?」
「どうだったと聞かれても答えようがないヨ」

 ボクの話を聞いても、掻太は平然としている。
 ま、今までボクの友人でいたような人間だ。こういう話は慣れっこだろう

「ふぅん……なんかさぁ、眼球が無い死体ってこれで3体目らしいよ。俺たちが入学する前からこの事件あったみたい。被害者はみんな眼球くりぬかれてて、それでみんなウチの学校の女子みたいだよ」
「フ〜ん」

 掻太がボクに話してくれた事実は事実でしかなかったし、言い換えれば男子のボクには関係無いというコトだ。ボクはハンバーグという名の牛の肉塊を頬張った。

「なんか物騒だよなぁ……」

 掻太は呑気に呟いた。みんなそうだ。物騒物騒と言いながら、自分は安全だと思っている。まさか自分が被害者になるとは夢にも見てい無い。
 本当に呑気なもんだ
 予鈴が鳴る

「次、何だっけ?」
「数学A」

 数学の先生はどうも苦手だ。第一印象的な感想だが。
 ボク達は屋上を後にしようと出入口の扉に近付いた。

 そこでボクは視界の端に黒を確認した。

「掻太」
「何?」
「先行ってテ」
「? ・・わかった」

 ボクは扉のある建物の屋根に梯子を伝って上った。
 そこには案の定

 黒い彼女がいた。

「・・・何?」

 彼女は言った。

「予鈴鳴ったケド?」
「だから?」

 予想通りの回答が帰って来た。

「確か同じクラスだったよネ。健全な高校生活を過ごしたいならもう教室戻った方がいいんじゃナイ?」
「……」

 しばらくの沈黙。

「……」
「……」

 彼女の方から口を開いた。

「あなたの目ってとても黒い。死んだ魚のような目をしている。」

 ほとんど初対面に近い人間に対する言葉にしてはかなり失礼なコトを言われた。
 つーか死んだ魚のような目って……

「ボクもキミに対してまるで同じコトを考えていたヨ。」

 ボクは慎重に言葉を選びながら回答した。

「そう……」

 彼女はただ普通に呟いた。

「あなたって……」
「?」
「あなたってまるで死という概念その物なのね。存在だけで回りの人間を殺していく。まぁ、人を人とも思わないあなたにはどうってことないのだろうけど……」

 ボクは言い返せなかった。
 なんと言うか、圧倒されてしまった。
 ボクの脳は機能を失った。
 黒い瞳がボクを見ている。
 いや、普通に考えれば、初対面の人間にこんなことを言うなんて失礼極まりないことこの上ないにも程があるようなことなのだが、ボク自信、彼女の言葉を聞いて妙に納得してしまったのだ。
 いや、まったくもって彼女の言う通りだ。反論の余地もない。
 実際に、ボクの友人は何人も死んでいる。

 授業の開始を告げるチャイムが鳴った。
 ボク達は動かない。

「ねぇ……」

 彼女は言った。

「もう始鈴鳴っちゃったことだし、出かけない?」
「ど、どこヘ?」

 ボクは口を動かすのが精一杯だった。

「屍体を見に行くの」

 彼女は淡々と答えた。

「もしかして、その屍体がある場所って工場跡地?」
「あら、知ってたの?」
「まぁ……ネ。ボクの名前は首廻捩斬。キミハ?」
「……人飼音廻(ひとかいねね)」

 これがボク達のファーストコンタクトだった。

++++++++++


「じゃあ、本当は捩斬クンが第一発見者なんだ」
「まぁネ」

 工場跡地
 例の屍体がある所。
 正確にはあった所。
 ボク達は立っていた。工場跡地のその屍体はすでに警察によって検証され、マスコミによってある程度世間を騒がせた。当然、屍体は死体として警察に回収されている。

「まだ匂いが残ってるね」

 彼女は当たり前のように言った。

「で、ココで授業をサボってまで何するツモリ?」
「現場検証」
「ア゛?」

 屍体も死体もない工場跡地でバシャバシャとカメラを撮り始める人飼。
 まさかコイツ、探偵の真似ごとをしようと言うのか?

「まさかお前、犯人を捕まえようっていうのカ?」
「ん? あ〜違うよ。そんな事して何になるの?」
「じゃあ、一体何を……」
「私はね、犯人を捕まえたいんじゃなくて、犯人に会いたいの」
「犯人に会いたい?」
作品名:Gothic Clover #01 作家名:きせる