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果てる世界に微笑んで 第一話

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第一話 微笑み十手使い

 下駄に着物の優男。笠の陰から覗く顔は、お兄さんというのは難しいが、おじさんとも言えないような人。カランカランと下駄の音を響かせて、土足で屋敷に上がり込む。
 この男、名を東城空夜という。
「下駄脱げよ」
 隣を歩く小さな少年、シロガネが溜息を吐く。因みに、シロガネは、律儀に草履を脱ぎ、草履を持って歩いている。片手で掻き分ける黒ずんだ髪はボサボサだが、血色は悪くないはずだ。
「まぁ、誰もいなくなる予定ですから、良いでしょう」
 東城はさらりと言った。ふわりと風が吹き、笠から漏れた黒い髪が流れた。
「どういう予定だよ……」
 シロガネは、ぼそりと呟く。すると、東城は柔らかく笑った。
「この家は、笠木家というですが、まぁ、あれですね。今晩、丁度お役人に取り押さえられる予定なんです。現在は、家族総出で逃走中です」
 当たり前のように、あっさりと言い切った東城に、シロガネは目を細める。
「ほぅ……ところで、そんな怪しい情報どこで仕入れてくるんだ?」
「風の噂です」
 そんな風の噂あるか、とシロガネは思ったが、敢えて何も言わなかった。
「この家の財産は、全てあの腐れ政府に没収されるでしょう。その前に頂くのです」
 何の悪びれもなく、東城は言う。夜の映る漆黒の瞳は、楽しそうに光っていた。
「お代官様、相変わらず手が汚いですな」
 少年は棒読みで言った。
「まぁ、強盗じゃないだけ良いでしょう」
 さらりと東城は言った。口元に浮かんでいるのは、優しい微笑み。使いどころが違うのは、この際どうでも良い。とりあえず、縁側を歩く男は、とても楽しそうだ。下駄の音も明るい。
 しかし、突然、下駄の音が止まった。東城は、笠を上げ、目の前に立ち塞がる侍たちを見た。シロガネも、それに従う。
「強盗になりそうだぜ?」
 シロガネは、にやりと笑ったが、東城は無視した。
「笠木家の者か?」
 堅い表情で、そう尋ねる侍たちに、東城は、柔らかい笑みを浮かべて返事する。
「いえ。この家のお米を少しばかり頂戴しようと思いまして」
「この家の者が、何をしたのか分かっているのか」
 どうやら、侍たちは、東城が笠木家の関係者だと思ったらしい。嫌な光り方をする侍の目を、シロガネは見た。