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フレンドボーイ42
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novelistID. 608
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Black Trigger【BT1/4】

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 黒い何かをつかみだし、この感触にハッとさせられた俺は立派な殺し屋だったという証明がいとも簡単にさせられてしまったようで少し悲しみを覚ゆること数瞬のことであったが、このことについて俺は別の悲しみを覚えるという点に着目すべきか。
 少女のバッグの中に、入っている傘、小物入れ、携帯電話、マスカラなどの化粧用具、そしてその中に不審に光る、穴があいた煙突上の、鉛を相手の体に打ち込む機械。少女は小さいながらに、俺の命を奪うために雇われた悲しき少女。まだ他で人生を続けられそうな少女。しかし俺は今彼女のこめかみに重厚を突きつけて、にたりと笑う。そしてつぶやく。「死ね」と。ただひとこと、そうつぶやく。「死ね」と。そして、彼女が怖がる姿をにたりと笑ったまま、再度つぶやき指をトリガーにかける。「死ね」と。
 俺は紅色の獅子と呼ばれ業界じゃあ少しはその名をとどろかせていた。それほど強い訳じゃない。殺しの依頼を無事遂行し達成できるかという点では自信がない。だが、自信があろうがなかろうが一度この業界に足をつっこんだら、汚れが内からも外からも染み込み染み出て、よもや洗うことすらままならないゆえに、俺は仕方なく依頼を承っては、それを何とかして遂行するわけだ。手を汚してきた故に、悲しみという物を覚える着眼点が異なってくる。それは依頼人が死んだときなどに特にそう思う。普通なら、それは人が死ぬことに対する事への無常観やその一重の愛別離苦が主として重んじられるべきなのだろうが、俺の場合そういう観念的道徳に基づいた感情表現のいっさいはすっかりなくなっており、俺が悲しむのは仕事をして手を汚しておきながら、肝心の収入と言うより報酬がなくなってしまったことに対する悔しさだけが募る。
 人間は生まれたときから、すでに府の部分や要素を持つと言うが、俺からすればそんなまどろっこしいことを言うんじゃねえと思うのである。俺からすれば、人間の一切衆生は皆罪人であり、それ以上でもそれ以下でもない。俺のかつて好きだった恋人が、ある日死体となって俺の目の前に横たわったときのことを思い出す。彼女が苦しんだことは、言うなればレイプ被害と言うところだ。俺はその日から肉や魚のいっさいを食べなくなった。肉という言葉から「肉体関係」「肉欲」という言葉を思い出してしまうというわけである。「肉体関係」というと「性的関係」のことであり、「肉欲」は「性欲」のことを、ずばり性欲という言葉よりも的を射た表現で表した言葉である。この世に和姦なんてないと思った。すべて強姦、レイプだ。女性が痛い思いをして、そして女性だけにその苦しみをすべて押しつけて、のうのうと男は煙草の煙をくゆらせながら、ノーズキャンディ・チョコ、エクスタシーにふける、というわけである。最悪だ。男はみんな、最悪だ。そして生まれてきた赤子は、みなそんな男どもの罪を背負っている。小さな背中に、あどけない表情の裏に、毒の盛られた黒い十字架が必ず存在している。わかっていただけただろうか。人間は皆、自分のしていない罪を担わされた罪人であると。
 人を殺すという仕事を始めるのに、そう思い悩みはなかった。俺はいつだって人を苦しめて生きてきたから、むしろ、それぐらいどうってことはなく、屋ってやろうじゃねえか、という感じで素直に入り、そして素直に律儀に目の前の連中を次々に撃ち殺していった。人を殺そうものなら当然恨みに燃える遺族連中に命をねらわれたり、場合によっては殺し屋がやってきたりということもあった。そのたびごとに俺は目の前に立ちはだかる奴を、容赦なく鉛のためで撃ち殺してきた。遠慮などいらぬ。悲哀の目を向ける必要もない。哀れんでもそいつの死は確定済みなのだから。そういうことを続けてきて、今の俺は霊能者なら「怨恨の霊あまた憑きけり」とほざくだろう。
 さて、俺は今からこの目の前でおののくか弱い少女をひとり、撃ち殺さばならぬ。これが今回の仕事。彼女には出来る限り極楽浄土とやらにいってほしいが、それを信じていない奴が祈っても無駄だろう。まあ、神がいるのなら、きっとこんな少女には何かをつかませてくれるだろう。だから俺はかわいそうだなんて考えない。引き金を引き、悲しい爆音とともに倒れる少女を見届けて、そこからさっさとずらかるのだ。