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君はまだ死ねない そのに

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 たとえ五分でも、睡眠の時間がほしい。人間の三大欲求の一つは睡眠欲なんだよ。
 テーブルに両腕を置いて、それを枕にして頭を預けると、すぐに意識が飛んだ。全身に何か優しいものが広がっていって、ゆっくりと、とても緩慢な速度で下のほうに沈んでいく感覚がする。
 眠るという行為が、どれほど幸せなものかはしらないが、どれほど優しいものかは解る。いろんなことを、生きていくうえで勝手に背負わされる無理矢理なものを無くして、何もないという安堵に包まれる幸福が、今の僕も、前の僕も欲していた。
 過去、僕は勝手にのしかかる荷物を嫌って、よく眠った。荷物というのは言ってみればすべてのもの。責任とか、権利とかそういう社会的なものもだけれど、食べることや、学ぶことといった行為も僕には荷物なのである。
 それらを背負い込んで、降ろして、また背負い込んでといった行程を見てしまってから、とても億劫になってしまって、いつしかいろんなことが苦であることに気づいてしまった。
 唯一、眠っているときが苦でなかった。
 言うなれば、忘れてるときが一番の幸福だと思うのだ。
「ねぇ、起きてよ」
 起きるときも、よく覚えていない。眠ってしまうときと同じだ。いつの間にか寝ているように、いつの間にか起きている。
「ああ、うん。ちょっと待って」
 昔からよく言われたが、僕が起きるときは特別不機嫌らしい。そんな気はしないけれど、確かに喜怒哀楽の尺が激しくぶれるのを感じることはある。よく言われるから、いつしか起きるときはこうしてしばらく放ってもらうことにしている。
 目をこすりつつ隠れてあくびをし、一度ここまでの経緯を思い出しながら心身の安定を図る。言えば難しいが、ようはぼうっとしながら何で寝ているのか思い出すのだ。
「えっと・・・・・ずいぶんと早かったね」
 まだ視界がぼやけているが、一応挨拶をしてみる。
「あなたね、二時間も寝てたんだよ?」
「え・・・・・・」
 あきれたような目をこちらに向けて言う女性の隣に、知らない女の子がいた。
 ぼやぼやっとしているが、ずいぶん華奢な女の子に見える。肩幅が小さいのと雰囲気で女の子と思ったが、男の子かもしれない。
「あー、ごめん。寝すぎた」
 まだクラクラする。寝起きが悪いって不機嫌なだけじゃなくて、身体的な問題のことも言うと思う。
 目頭を押さえる「うーん」深呼吸する「はぁ〜」髪を撫で付ける「・・・・・・よし」
「もう大丈夫だと思う」
「そう、何か飲む?」
「お構いなく、って言いたいけどできればコーヒーが飲みたいです」
「あいよ、買ってくるよ」
 視界がだいぶはっきりしてきた。立ち上がった彼女の顔からあきれた色は消えたみたいだ。
「あ、その前に紹介しておくよ、彼女が例の子」
 視線を移動させる、僕の前あたりの椅子に座る彼女がこちらを見ていた。
 外人みたいな綺麗な輪郭、不思議なくらいに整った顔のパーツ。そして一番の特徴、まさに銀でできているのではと思うくらいの息を呑むほどに美しい銀髪。
 僕は呼吸ができなくなった。
 彼女の容貌にではなくて、いや、容貌にかもしれない。しかし、それを含めての彼女全てのせいでだと思う。
 心臓が激しく痙攣する。机に置いた腕が動かない。両足もまるで打ち付けられたように動かない。首から下の感覚が無くなって、体がどこか行ってしまったみたいになって、思考回路が壊れてしまったように、全部が停止してしまった。
 僕を置いて、世界が動く。一人だけ取り残された感覚。
 まさか・・・・・・。心が呟く。そんなはずが。どんな偶然だよ。きっと違う人間。いろんな思いが頭を駆け巡る。
「初めまして、連木睦月です」
 にこやかに笑む彼女が、恐ろしく思えた。