小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

獏の見る夢

INDEX|27ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

そして何度でも目覚めよう。この愛すべき現実の中で


 目を開けると、そこは見慣れた天井だった。真っ白で清廉で一点の穢れも無い――――私の研究室。

「実験は成功ですね、博士!」
「おめでとうございます!」

 目覚めるなり賞賛の声が投げかけられる。

「ああ……そうだな」

 私はゆっくりと身を起こす。私ももう随分と年を取った。こんな動作一つでさえ随分と緩慢なものだ。

 起き上がり自分を包み込んでいた装置に目を馳せ、そっと撫でた。

「満足のいく悪夢は見られましたか?」
「ああ」

 研究員の一人に尋ねられ、私は頷きながら答える。

「随分たっぷりと見てしまったよ。危うく帰って来られないかと思ったくらいだ」

 私のその言葉に研究員達がドッと笑った。半分冗談ではないのだがな……。

「まだまだ調整は必要だが、おおむね成功と言えよう。集めた悪夢の質も悪くない」

 装置の正面に設置されたモニターの中では少女が笑っている。透けるような白い肌、闇よりも深い黒くて長い髪。そしてこの世のものとは思えない程に美しい顔立ちをした――――私の愛する機械人形‘メメント’。

『博士、おはようございます』

 モニターの中からメメントが言葉を投げかける。

「おはよう、メメント」

 私が挨拶を返すとメメントは嬉しそうに目を細めた。

「メメントは素晴らしい人工知能です! 悪夢から開放するキーシステムはメメント意外にあり得ません! さすがは松田博士です!」

 研究員達の賞賛を浴びながら、私は夢の世界に思いを馳せた。
 若く、世界そのものに絶望している‘俺’が夢の中で‘松田博士’の作った‘夢喰い装置’なるものに翻弄され、その中で現実はそんなに悪い物では無かったと思い、そして願う。――――変わらない現実を。
作品名:獏の見る夢 作家名:有馬音文