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獏の見る夢

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           *
 事務所の前を一人の少女がうろついていた。
 透けるような白い肌、闇よりも深い黒くて長い髪。そしてこの世のものとは思えない程に少女の顔立ちは美しかった。だが、目だけがどこか虚ろで遠くを見ているようだった。

「君、こんなところで何しているんだ?」

 俺がそう声をかけても少女は何も答えない。無視をしているのかと言ったらそういうわけでも無さそうだった。

「おい!」

 今度は少しだけ荒っぽい声を出し、少女の肩をわし掴んだ。

 それでも少女はにへらっと顔を一瞬歪めて笑っただけだった。
 俺は確信した。こいつは白痴だと。そして俺はある考えの元に、少女を事務所の中へと引きずりこんだ。扉の札を使用中に変えて置く事も勿論忘れなかった。
作品名:獏の見る夢 作家名:有馬音文