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白草(しろくさ)
白草(しろくさ)
novelistID. 631
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曇り空、その向こう側に

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「年越しとかさ、年末ってさ。くだらないよね」
 日本酒の注がれたグラスを持ち上げて、口の前まで運びながら、私は呟く。
 時は十二月三一日、午後一一時四八分。私は、大好きなサークルの音楽をパソコンで再生しながら、新年を待っていた。そう、今日は年の瀬。ニューイヤーイヴ。なんでもイヴって付ければいいわけじゃないよね。って、去年のこの時間、この部屋にいた彼ならそう言うかもしれないけれど、今年の私の部屋は、人一人分だけ温度が低い。
「でも、楽しいんだよなぁ。どうして?」
 轟々とエアコンが室内に風を送り込む音が響く中、私は微酔機嫌で、誰にでもなく言葉を紡ぐ。質問に応えてくれる人など、いないのに。彼は、私から離れて行ってしまったのに。
『それは、メディアに踊らされているから?』
 それでも私は声を聞く。私は彼の、声を聞いた。
 ああ、いけない、と。私にはもう彼の声を聞く資格はないのだから、と。言い聞かせようとして、小さく頭を左右に振る。
 頭の周りで響いた声は、気持ちの高揚を打ち壊すには十分すぎて。そんなことはわかっている、って、私は言い返したくなるのだけれど。言い返したら声は消えてしまうから。彼の声すらも、私から離れて行ってしまうような気がして、私は言葉を紡げない。
『どうして一月一日に年が明けるの? 君は、知っている?』
「うるさいわね、ちょっと黙ってなさいよ」
 でも、駄目だった。私一人の、新しいイヴが、台無し。お酒も飲んで、蕎麦も用意して、初詣に行く準備だってしてあったのに。煙草のストックだってあった。それなのに。彼の声のせいで。
「あんたのせいでめちゃくちゃよ」
 だから私は叩きつけるように言った。そして、思い出す。去年の今日、この時間に、彼とこんなやりとりをしていたことを。
『なにが、めちゃくちゃなの?』
 いいかげんにしろ、って、振り向いて、叫びたかった。
 でも、それはできない。
 だって、振り返っても彼はいない。でも、振り向かなければ彼はそこにいるのだ。
「正月よ。あと数分で年が明けて、色々と楽しい行事が待っているはずだったのに」
 だから、私は振り向かない。
 よくないことだと頭では理解しているつもりだ。別れた男をいつまでも引きずっていることの愚かさだって知っている。でも、今日はイヴ。ニューイヤーイヴ。すべてを清算し、新年へと進むための準備をする時間。