小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

限り無く夢幻に近く

INDEX|8ページ/24ページ|

次のページ前のページ
 

 それからも俺達は、電車の中で不思議なものばかり目にした。
 星の中を抜けた列車は、今度は雪原に出た。まるで世界から色が失われたかのように真っ白。あまりに白すぎるそれは眩しいほどに輝いていた。そんな無の世界の中で、更に白いハクチョウが飛び立つのを見た。
 次に現れたのは、山奥に咲くツツジの木々だった。赤、白、紫、橙。鮮やかな色がいっぺんに咲いていた。
 雨の降る桜並木の間も抜けた。ちらちらと絶えず薄紅色の雨が振った。絨毯のような花びらを見ながら、そういえばお花見もツカサと一緒に行ったっけ、と思い出す。尋ねると、やはり彼の答えは曖昧だった。白い砂浜に沿って走る場所もあった。浜辺で砕ける波を見て泳ぎたくなった。照りつける太陽の中、入道雲が綺麗だった。遠くで雷が光っていた。そのうちにまた暗くなって、ススキ野原の中で銀色の月を眺めた。丸く大きな十五夜だった。開け放した窓から、金木犀の香が入ってきた。

 そこでやっと、車両ひとつひとつに季節があることに気がついた。
 景色が変わって、何度目かの扉を開けると四季が廻る。季節の長さはまちまちで、一両で次の季節に変わることも、何両も同じ季節が続くこともあった。次第に俺達は歩く速度を遅くし、切り取られた季節を味わうようになっていった。

 秋が来て、冬が来て、春が来て、夏が来る。
 そのたびに懐かしいものを感じていた。



「食堂車だね」
 扉の向こうの様子は、此処に来て唐突で、意外に思えた。今まではずっと通学に使う電車のような対面式の座席ばかり並んでいたのに、そのドアの内側だけは何故か旅行列車の如く四人がけのテーブルが支配していた。
「食事は出てこないだろうけど…お腹空いた?」
 誰が使うかも知れない真っ白なテーブルクロス。なんとなくナプキンを持ち上げてみる。綺麗に折り目がついてる。
「別に。お前は」
「僕は別にいいんだけど」
「あ、見て。コーヒーサイフォン」
 カウンターに設置されたサイフォンがある。これまた奇妙なことに、すっかり淹れたてが硝子のポッドの中に揺れている。
「ツカサは飲めるんだっけ。折角だから休んでいこうか」
 カップやらシュガーポッドやらも全部引っ張り出してテーブルに並べる。どこから見つけてきたのか、アキトはクッキーを取り皿に分けていた。
 促される形で、一緒になって席に着く。その間も、窓の外はゆっくりと流れていく。
 正面に座って珈琲をすするアキト。つられて一口含んでみる。
 そういや、よく近所の喫茶店に休みに行ったっけ。もう一口は先刻より強く、苦かった。
 シュガーポットを眺めながら、ティースプーンがないことに気付く。仕方なくポッドごと傾けることにして、その手がぴたり、空中で停止する。

『だって、苦いよ。無理』
『君はよく平気だね』

 ――なんだ、今の。
 喉が鳴る。珈琲の苦さのせいじゃない。枕木を踏む音が規則的に鼓膜を震わせる。
 タタン、タタン。ガタゴト。違和感に顔を上げる。アキトは、平気な顔をして珈琲を味わっている。

「アキト」
 声が震えていないのが不思議なくらいだった。否、何がおかしい?
「お前、紅茶じゃなくて良いのか?」
「え?」
「あ、いや」
 真摯な眼がこちらを見詰め返した。途端、あったはずの不安は霧の向こうへと掻き消える。

 今、誰と間違えたんだ?
 その疑問さえもまた遠ざかっていく。

作品名:限り無く夢幻に近く 作家名:篠宮あさと