限り無く夢幻に近く
その日はひどく落ち込んでいて、部室にも顔を出さないまま家路についた。
言葉がぐるぐると頭の中を廻り、何をするにも片端からやる気が殺がれていく。
CDショップの前にさしかかる。一面張り出されたポスターが目に留まり、今日がシングルの発売日だったのに気がついた。財布の中身が無いから試聴だけでもしていこうか。
寄るか寄らないか迷っていると、何か冷たいものが頬を掠めた。見上げれば、濃灰色の空からぽつぽつと落ちてくるものがある。
そういえば午後から降るって言ってたっけ。カバンを漁ってもカサは見当たらない。探している途中で、ロッカーに放り込んだままなのを思い出す。そのうちに段々と雨粒が大きくなる。
「……最悪」
ああ、もういい。さっさと帰ってしまおう。電車に乗ってしまえばあっという間に家だ。これ以上ひどくならないうちに走り出すのが賢明だろう。
そうして、道に群生し始めたカサの間を駆け抜けた。