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杜若 あやめ
杜若 あやめ
novelistID. 627
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つくも神

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時計の2本の針がぴたり、と重なった。
「じゃあ、巡回いってきます」
俺は懐中電灯を手に立ち上がった。
「足元に気をつけて。独り言は無視するんだぞ」
眠気覚ましなのか、膝の屈伸運動をしながら
武井さんは言った。
髪が真っ白だから60を越しているかと思ったが
動作をみると、もう少し若いかもしれない。
俺は「はい」と“いい返事”をし、武井さんが笑顔で
頷くのを確認して警備員室を出た。
大学最後の春休みを利用しての短期バイトだから
人間関係などあまり考えなくてもよさそうなものだが
それでも、「ビル警備員」という、夜間勤務・少人数・少々の危険あり
という職場では、よい関係を築いていたほうがいい。
実を言うと、武井さんと初めて顔を合わせた時、髪の白さと
ちょっとガンコそうな顔つきに、少々不安になった。
「いまどきの若者」の象徴として勤務時間中
永延と愚痴と説教を垂れ流されたらどうしようと
思ったからだが、それは結局杞憂に終った。
武井さんは「よい意味」での無関心さで俺に接してくれた。
気候の話くらいはするが、それ以外の会話はほぼ必要事項だけだ。
よって、俺はわりと快適に勤務時間をすごすことができている。
「あと一週間」
懐中電灯の明かりを頼りに廊下を歩きながら、おれは頭の中で残りのバイトの日数と
懐に入る金を計算した。
「10万以上になるかなあ」
自然に口元がゆるむのを感じる。
時給の割には楽な仕事だ。このビルは一昨年都心再開発事業の一環として建てられた
高層ビル群のオフィス専門フロアで、メディアでよく名前の上がる企業ばかりが
入っている。残業があっても10時には完全に無人となるフロアを、
翌日の就業時間までに2回見回り、あとは部屋で待機だ。
ここ2週間にあったことといえば、OLが忘れ物を取りに来たことと、飲食店フロアと
間違えて酔っ払いのカップルが迷い込んできたくらい。
泥棒と鉢合わせして殉職。などはテレビの中だけの話のようだ。
真っ暗なオフィスを一つ一つ、エアコンの消し忘れがないか覗いて確認する。
武井さんの話では、以前はタバコの火の不始末が結構あったらしいが
ビルが全面禁煙となってからは、その心配もない。
懐中電灯の丸い光が、整然と並んだコンピューターの上を
虫のように飛び回る。学校もそうだが、大勢の人がいて当然の場所
作品名:つくも神 作家名:杜若 あやめ