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ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~

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邂逅ー抱懐



敬語を止めた方がいいと言われ一瞬ポカンとしたヒナタだったが、言われている意味が分かり頷いた。主は一人、という事だな。

「ああ、なるほど。分かった。じゃあありがたく普通にしゃべらせてもらうよ。」
「うん。だから名前もさん付けいらないから、普通に名前で呼べばいいよ。」
「うん、ヒオウ。じゃあこれからよろしくな。」
「そうだね。共に行こう。」
「・・・うん、一緒に。」

ヒナタが最上とも呼べる笑みを浮かべた。
ヒオウも本当にニッコリと微笑んだ。

あらためておやすみなさい、と言ってヒナタは部屋を出た。
自分に宛がわれた部屋へと戻りながら自然とまた笑みが漏れた。

あの人は、共に行こうと言ってくれた。
共に。
頼られるのではなく、がんばってと押されるのではなく、ついてきてくれるのではく、ましてや上から言うのでもなく。
共に、と。

今まで自分は出来ることを惜しまなくやってきた。
そしてそれは認められ、いつの間にやら名実共に盟主として皆に支持されるまでとなっていた。
本当は別にそうなりたかった訳ではない。

ただ故郷を追われ、どこにいても逃げる羽目になり、ただそんなのが嫌で。
そしてあの、人を家畜以下としか扱えないルカが許せなくて。

決して上に立ちたかったわけではない。
頼られたかったわけではない。
でも仕方がないじゃないか。
僕以外に出来る者がいないというなら。
それで皆が笑って暮らせるようになるというなら。
もうやるしかなかった。ただがむしゃらに前へ進んだ。

でもふと自分の周りを見ると、なんだか自分の周辺にぽっかり穴が開いているような気がする時があった。

孤独。

いや、実際はそんなことなどないのだけれども。
実際は皆がいて一緒に戦い、笑い合っているんだけれども。

ただなんとなく、皆が自分の後ろについてきてくれているのだけれど自分の隣や前には何もないような、そんな心もとない感じがするときがあった。

レックナートやルックがいうには自分は天魁星なのらしい。
天を魁(さきがけ)る星。
もしかしたらその星のもとに生まれた僕は皆を導きはすれど、だれも僕を導いてくれたり共に進んでくれたりはしないのかな。

そんな時に彼は”共に行こう”と言ってくれた。

誰もそんな風には言ってくれなかった。
とても嬉しかった。
そういえば彼も天魁星なのらしい。

だからなのかな?

いや、そんな事はどうでもいいや。
兎に角本当に嬉しかった。彼に出会えて本当に良かった。
会った時はあまりの存在感に圧倒され、そして彼の垣間見えた恐ろしさに震えもしたけど、でもきっと彼は自分にとって大切な仲間になる。

部屋についたヒナタは伸びをしてからベッドに入った。

そして満ち足りたように微笑み、眠りについた。



共に。

そう、共に行く。

彼こそ自分が欲していた存在。

この愛すべきどうでもいい世界で、色々なことが待ち構えるであろう楽しい退屈な世界で、限りある無限の世界で。
僕にとってなくてはならない存在。
この死神の紋章が光の紋章をそばに欲しいと思うように。

ヒオウはニヤリと笑った。

こんなに歓喜している紋章の状態は本当に初めてだ。
身近な魂を取り込んだときよりも喜んでいる。
しかも取り込みたいというのではなくそばにいるだけで”これ”が喜んでいるとは。

「・・・ああ、紋章は所詮持ち主の一部なんだね。きっとお前も僕の気持ちと一体となっているんだ。」

まあ、そうであるなら身近な人々の魂は奪わず、いっそ生き返らせて欲しいところだが。

・・・思ってもそれはせん無き事か。さすがに僕には死んだ人間を生き返らせる、どこかの吸血鬼やレックナートみたいな技は持ち合わせてないしね。

・・・ただ、輝く盾の紋章は今は不完全なもの。
確か完全なる紋章は始まりの紋章、だっただろうか。

不完全ということは完全に機能しないということ。
歳をとるどころか持ち主自身に影響があるかもしれない。

そんなことは許せない。

紋章の片割れはどうなっているのだろう。
盾と・・・剣。

・・・ビクトール達は何か知っているだろうか。

ヒオウは部屋を出た。
もう夜も更けてきているがあいつらなら絶対まだ飲んだくれているはずだ。食堂の方を見るとやはり明かりがもれていた。

「ビクトール。」

食堂に入ると酒臭かった。
すでにクレオは部屋に戻っているらしくグレミオやパーンはテーブルに突っ伏して眠っている。
だが案の定腐れ縁の2人はまだ飲んでいた。

ヒオウは彼らの前に座って自分も手酌で酒をいれてゴクッと飲んだ。

「聞きたいことがあるんだが。」
「おお、何だあ?ていうかいつの間に酒なんて覚えたんだ?」
「何言ってんの?あの頃だって少しは飲んでいたでしょ?第一僕はこう見えてもう二十歳だからね。」
「そういやそうだったな。だったら食後ここに残って一緒に飲めばよかったのに。」

フリックが言った。

「お前たちに付き合っていたらきりがないからね。それよりもヒナタの紋章って、2つに分かれていた1つだよね?もう1つはどうなっているか知ってる?」
「ん?ああ。確かジョウイが宿していたな。」
「じょうい?」
「ああ。ジョウイっていうのはヒナタの親友だ。あいつとヒナタと、ヒナタの義理の姉がいんだがな、この3人はほんと仲良くてな。」
「・・・ふーん。」
「そうだな。もともとは2人ともそんな紋章など宿していなかったんだが、どこで何があったのか知らないが再会した時は2人にはそれぞれ片割れが宿っていたんだ。」

ビクトールの後をフリックも続けた。

「で?そのジョウイくんっていうのは今は?」
「・・・ハイランドにいる。あいつにはあいつの考えってのがあんだろうが・・・。ルカが死んでこれで丸く収まってくれりゃあいいんだが・・・どうも一筋縄じゃいかねえ気がするぜ。」
「・・・ああ。ヒナタにもそれが分かっているんだろうな。戦いはきっとまだ続くんだろう・・・。」

ビクトールとフリックが少し辛そうな顔をして言った。

「そう。」

その後一言二言なんでもない会話をした後、ヒオウは席をたった。

「じゃあね、僕はもう寝るよ。お前たちもほどほどにね。」
「あ?ああ。なあ、お前はこれからどうすんだ?」
「僕?さっきヒナタに一緒に戦って欲しいと誘われたよ?軍自体に協力するわけにはいかないけど、ヒナタ個人には協力させてもらうよ。」
「そうか。・・・ヒオウ。ヒナタをよろしくな。だがグレミオが煩そうだな。」
「グレミオ?まあ、彼ならなんやかんや言って結局は僕の味方だからね。じゃあ、おやすみ。」

ヒオウは食堂を出て自室へと戻った。

・・・ジョウイ。

もう1つの真の紋章の片割れの継承者。

成る程ね・・・。

ヒオウはあくびをしてベッドに横になった。

そして楽しげに微笑み、眠りについた。