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体感温度

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キラキラと降る。




名前を呼ばれたその瞬間。
アナタのことを。
強く、強く。
好きだと思った。

『ユメ、帰るの?』

たった一言。
ユメコが駆け下りていく階段を、カオルは逆に駆け上っていく途中だった。
採光用の、鉄格子のはまった大きな窓から、煌々と西日が降っている。
空気中に舞って光を反射する細かな埃自体がまるで、光そのもののようだった。
何があったのかは知れないけれど。
いつもは仏頂面のカオルが少し、優しい顔をしている。
けれど彼女の心根は今の表情のように、いつだってとても優しいことをユメコは知っている。

『まだ帰んないよ、部活中だもん。』

いつもなら。
好きだって言っているような。
そんな場面だったのだけれど。
いつもなら、すれ違っただけの段数を駆け上って、自分よりも大きなカオルに抱きついていたのだろうけれど。
何故だか今は、止めることにした。
とても、好きなんて恥ずかしくて出てこなかったし。
カオルの一言だけで、全て、充分な気がしたのだ。
幸せなんていうのは、こういった瞬間を指すのだと思う。
身体中全て、暖かいもので充足する。

『そう。』

カオルはそういって、階段の上を見た。
ユメコには顎の下だけが見えた。
このまま別れてしまうのは勿体無い気がするのだけれど。
いつもほどには話のネタが見つからない。
だからきっと、このままマタネと手を振って別れるのが一番良いのだろう。

『マタネ。』

カオルちゃん、またね。
そう言って、手を振った。
またね、とカオルはさっさと上を向いてしまって振り返らなかった。
彼女はいらないところまで潔い。
そんなところも好きだけれど。
大好きだけれど。

『カオルちゃん、カオルちゃん、カオルちゃん。またね。』

充分だったものが抜け落ちていく気がして。
それに任せて、カオルの名を呼んだ。
カオルの名前が好きだ。
カオルの声が好きだ。
カオルの後姿が好きだ。
全部好きだけど。
全部じゃなくても好きだと思う。
彼女の断片ならば、どんなに小さくてもソレと解る自信がある。

『ユメコ、またね。』

カオルは、珍しく振り返って、とろりと微笑った。
あんまりにも沢山呼んだからなのだろうけれど、それにしては酷く優しい笑みで。
思わず見蕩れて、返事を忘れてしまう。
そのうちに、カオルはスカートの端を翻して、上へと上って行ってしまった。


どんなアナタも好きだけれど。
名前を呼ばれる度に。
アナタのことを好きな自分を、強く強く意識させられる。
何度も強く、好きだと思う。

作品名:体感温度 作家名:はち子