小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

春の残数

INDEX|1ページ/1ページ|

 
夏葉の伸びゆく樹下で、花が綻ぶ順番も土地によって違うのだと教えられた。
君は海育ちだから知らないだろうけどね、とあなたは言った。

蝋梅、桜、雪柳。
はこべ、たんぽぽ、つゆくさ、すみれ。

色の順番、枝の順番、手折る順番。

間違えたなら、来年は気付くのが遅れてしまうよと。

笑って教えてくれたあなたは、そうして触れた若葉に目を細め。
あなたが待てるかわからない次の春の、わたしの過ごし方を教えた。
きっとわたしが一人っきりで迎える春の、花の数え方。

今年、桃は見た?りんごは、ヒメジョオンは、ケイトウは、イチゴは?
どれにも首を振るわたしに、いけないよ、とゆっくり呟いた。
決して一緒に見ようと言わないで。

ただ一つ、愛した季節の庭を歩いていく。

その瞼裏に、いつか来る春を思い描いて。
そこに一人立つわたしを想像して。

遅咲きのわたしが夏草に埋もれる姿を知っていて。

あなたの命の残数は、きっと誰にもわからない。
遅咲きの花だから、あなたはわたしに触れない。
他の人に手折られなさいと、微笑んでわたしを眺める。
わたしが咲くのが遅かったから、わたしはあなたの庭にはいない。

あなたは散る花よりも汚らしく、やっと来る春を待たずに死ぬだろう。
わたしは花が散るのを待って、きっとあなたの庭を歩くだろう。
作品名:春の残数 作家名:八十草子