春の残数
君は海育ちだから知らないだろうけどね、とあなたは言った。
蝋梅、桜、雪柳。
はこべ、たんぽぽ、つゆくさ、すみれ。
色の順番、枝の順番、手折る順番。
間違えたなら、来年は気付くのが遅れてしまうよと。
笑って教えてくれたあなたは、そうして触れた若葉に目を細め。
あなたが待てるかわからない次の春の、わたしの過ごし方を教えた。
きっとわたしが一人っきりで迎える春の、花の数え方。
今年、桃は見た?りんごは、ヒメジョオンは、ケイトウは、イチゴは?
どれにも首を振るわたしに、いけないよ、とゆっくり呟いた。
決して一緒に見ようと言わないで。
ただ一つ、愛した季節の庭を歩いていく。
その瞼裏に、いつか来る春を思い描いて。
そこに一人立つわたしを想像して。
遅咲きのわたしが夏草に埋もれる姿を知っていて。
あなたの命の残数は、きっと誰にもわからない。
遅咲きの花だから、あなたはわたしに触れない。
他の人に手折られなさいと、微笑んでわたしを眺める。
わたしが咲くのが遅かったから、わたしはあなたの庭にはいない。
あなたは散る花よりも汚らしく、やっと来る春を待たずに死ぬだろう。
わたしは花が散るのを待って、きっとあなたの庭を歩くだろう。