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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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かにと娘

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今はもうかれてしまったがのう。
昔、蟹田村に池があっての、たくさんの蟹がおった。
村の者はその池を「かに池」と呼んでおったそうな。

娘がおった。

庄屋の娘で、名をみやというて、小さい頃から利口で優しい子じゃった。
みやがまだ数えで十を超した頃のことじゃ。
使いの帰り道、蟹池のそばを通りかかると、自分より年の行かぬ子どもらが、蟹をいじめておった。
棒でつついたり、石を投げたりしての。
蟹が怒ってはさみを振り上げるのを、おもしろがっておった。
みやは見かねて、子どもらを追い払い、蟹を助けてやったんじゃ。
その蟹は、りっぱなはさみを持っておって、体も大きくてな、池のヌシだったんじゃよ。
蟹はうれしそうに池へ帰っていったそうな。

さて、それからずいぶん時がたって。
みやは年頃の花のような娘になったそうな。

ある日のことじゃ。
山へ草摘みにでかけたみやは、つい夢中になってしまっての。
どんどん奥へはいっていってしまった。
水の音で気がつくと、見も知らぬ場所じゃった。
深くて水の澄んだ淵があって、小さな滝が注ぎ込んでおった。
みやは心細くなって、急いで帰ろうとしたんじゃが、はて、今来た道が消えておる。
そのとき、人の気配を感じて振りかえると、淵のそばにりっぱな身なりの若者が立っておった。
びっくりして立ちつくすみやに、若者はやさしく言葉をかけたんじゃ。
張りのある、澄んだ声での。
一言二言はなすうちに、みやの心の不安はすっかり消えて、うちとけていったんじゃ。

若者は、道に迷ったみやに帰り道をおしえたが、不思議なこともあるものじゃ、若者が指さす先には、さっきまで草ぼうぼうだったところに、白く細い道が木立の向こうに続いておった。
また会う約束をして、みやは山を下りてきたんじゃ。

それからというもの、みやはたびたび若者に会いに山へでかけるようになった。
親たちは心配しての、ある時、こっそり後をつけて、淵のそばでみやが若者と会っているのを見てしまったんじゃ。
もしや、物の怪では、と、怪しんだ両親は、みやに会いに行くなときつく言うんじゃが、みやは聞く耳を持たなかった。
母親は一計を案じての、みやにきれいな櫛を持たせ、若者の大切なものと交換してくるように言い含めたんじゃ。

みやは言われたとおりにしたが、若者からもらったものをよくよく見ると、それはなんと、銀色に光る蛇のうろこじゃった。
みやも両親も恐ろしゅうなって、家の戸をしめきって閉じこもったんじゃ。

やがて、若者はみやをさがして山から下りてきた。
みやの親たちは、みやを長持ちの中にかくして、若者を追い返そうとしたんじゃよ。
ところが若者は怒って、蛇の本性を現し、暴れ回った。
そして、みやのかくれている長持ちを見つけ出し、さらっていこうとしたんじゃ。
みやは長持ちの中で息を殺しておった。
蛇が長持ちに巻き付いて、みやをさらっていこうとした、そのとき、蟹池が波立って、中から何十何百という蟹が現れ、蛇に襲いかかったんじゃ。
そうして蛇を食いちぎって殺してしまったんじゃ。

この蟹どもは、昔みやが助けてやった蟹のヌシの子孫で、恩返しにやってきたというわけじゃよ。
みやはこのときに死んだ蟹を、塚を作って懇ろに葬ってやったということじゃ。

蟹塚は今もあるそうな。
作品名:かにと娘 作家名:せき あゆみ