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漆黒のヴァルキュリア

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第四章 女神達の黄昏 7



 村人たちの悲しみの中で、恵那の葬儀は行われた。
 流行病にて、若くして世を去った娘。
 その事実は、土地を統べる土地神に、充分な同情を与えるはずだった。だが、その娘――いや、村そのものの成り立ち自体が、土地神の不興を買っていた。
「妙音天女よ。いくら天照大神の使者とて、これは譲れぬよ。土地を守護してきた我が恩を忘れ、唯一神など崇める娘――許してはおけぬ。この娘は、根の国へと連れて行く」
 土地神の、刺す様な視線。異国の女神たる自分の事をまで責立てるかのような視線に、次の言葉を選べなかった。
「その娘に……救いはあるのか?」
 ハラフワティーが言えたのは、そんな問いかけただ一つだけだった。
 自分がどんな立場にあるのか。その娘に、そんな疑問を持つ余裕すらない。自らの死さえ、まだ理解していないのかもしれないのに。
 元々が異国の女神であるハラフワティー――妙音天女にとって、八百万の神、その一角であるかの土地神を説得するのは、元より容易な事ではない。西洋の異教、他の信仰を赦さぬ強権の唯一神。それに対する信仰心への敵対。
 ただの土地神にできる事など、たかが知れている。なのに、積年の恨みが、かの神を頑なにさせていた。
「我には関係のない事。知った事ではない」
 そう言って、土地神は娘の腕を掴んだ。
 刹那――
「う……あああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 娘の手に握られていた刀。そんなものが宙を舞った。
 いや、舞う様に、見るものの目には見えたのだ。
 切っ先が描いた軌跡は、低級神とはいえ、神を一つ葬り去った。
 八百万の神々はざわめいた。
 神一人殺した娘の、その力を賞賛するもの。
 その力に恐れおののき、存在を消し去ろうと提案するもの。
 その最中に、一人の女神が一つの提案をした。
「んじゃ、ウチが預かろか? 唯一神の信仰がウザいあんたら。一人でも多く人手の欲しいウチ。んふふ〜、アマテラスの姐さんとこ遊びに来て、えーカンジの掘り出しモンに出逢ぅたわぁ〜〜〜!」 
 異教の女神の提案に、無論、反対する者がいた。
 その一方で、賛成する者もいた。
 だが、いずれにしろ、異教の信仰は滅せねばならなかった。
「……おおきに、フレイヤはん。お世話かけますなぁ。どうも、ウチではよう纏められへんよってに。助かりますわぁ」
 天照大神。彼女の一言によって、この一件に、ようやく片がついた。



「ほんまやったら、消し去られてもおかしくない存在や……せやけど……」
 ハラフワティーは、足元の恵那を見据えた。
 恵那のアストラル体が、非常に薄くなっている。もう、自我を保っていられる時間は残り少ない。このままで、何か手を打たなければ、ほどなく消滅してしまうだろう。
「波乱やったな。このまま、楽になりぃ……」
 慈悲の眼差しで恵那を見据える女神。その視線の先で、恵那は虚空に手を差し伸べた。
 その手の先に、ムニンが舞い降りる。
 恵那は仰向けになったままで、自らの額にムニンを乗せた。