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漆黒のヴァルキュリア

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第三章 これぞ勇者! いろんなイミで! 5



「ん〜……こんなところ……かしら?」
 化粧室の鏡の前で、ムニンは化粧し終わったエナの顔に、ソバカスを付けていた。
「……地味だなぁ……」
 鏡に映る自分の顔を見ながら、エナが情けなさそうにそう漏らす。
 長い金髪は二本の三つ編みに。
 顔にはぶっといフレームの丸メガネとソバカス。
 そして、アニメキャラが大きく胸元にプリントされたTシャツと、ごく普通のストレートジーンズにスニーカー。
「あらあらまぁまぁ、どっからどう見ても、立派なアメリカの腐女子ですわぁ」
 半ば小ばかにした様に、ムニンがそう言う。
「……なんか間違ってる気がするんだけどなぁ……まぁいいか。紳太がこういう知識もあったってのは驚きだけど、これでそんなに目立たないだろ……」
 言いつつ、エナは化粧室を出た。



 ひしめき合う群集の中に入り、流れに身を任せながら、エナはどこかへ流されていく。
 そんな中で――
「……お? この歌……」
 ブースの一つで、エナは足を止めた。ブースの机上に、CDが数十枚山積みになっている。それを手に取った。
 お世辞にも、綺麗とは言えないジャケットの印刷。しかし、そこには以前見た暴走族の少年のような登場人物と、ヒロインらしき軍服姿の少女、それから『特攻隊長桜花くん挿入歌・後藤月光切り込み隊』という曲名が記されていた。
 ジャケットを裏返すと、今度はその曲の歌詞が印刷されている。
「あ〜……思い出した。何十年も前に行った東南アジアのジャングルで、日本兵が歌ってた歌だなぁ。オレの初任務ん時の」
 うんうん、と頷きながら、エナは思わず昔を回顧する。
「ああ、響七郎様をお迎えした時の」
「お姉さん、そのカラス喋れるの?」
 ムニンとやり取りをしているエナを見ていたブースの主――二十台後半くらいの男が、不意にそう話しかけてきた。
「あ? え? あ、ああ、め、珍しいだろ? オレが苦労して教え込んだんだ。オウムなんかより、よっぽど喋るんだぜぇ〜?」
「お姉さん、アメリカ人? 日本語上手だね〜。どう? そのCD買わない? レアもんなんだぜ? あまりのブラックさでPTAから抗議が来て、五話で打ち切られた伝説のヤンキーアニメ、『特攻隊長桜花くん』の挿入歌だぜ? 知り合いが持ってたマスターからコピったんだよ」
 どうでもいい内容の説明に、エナはアクビを見せると口を開いた。
「ゴメンナサ〜イ、ワタシ、ムツカシニホンゴワカンナイネ? バイ!」
 ロボットの様な口調でそうまくしたてると、エナはブースに背を向けた。
 その背に向けて、ブースの主の声が届く。
「って! ちょっと! いま日本語バリバリ話してたし! 冷やかしかよ〜!」
 再びエナが流れに乗って移動を始める。
「あ〜ぶねあぶね。ヘンなのに捕まってるヒマないんだよ、オレ……」
 言いながら、エナはムニンを右手に乗せて、高く掲げた。
「おいムニン、なんか見えるか?」
「あ、東に移動中ですわ……あ、今度は北……どうしますの? こんなんじゃ、追いつけませんわよ?」
 ムニンの言葉に、エナは筋目で眉間にシワを寄せた。
「つってもな〜……アストラル体に戻れないんじゃ、飛んで近づくのもムリだし……いっそ、おびき寄せたりとかできればな〜……」
「どうやって、ですの?」
「……騒ぐ、とか?」
 エナの答えに、ムニンは笑みを引きつらせた。
「この喧騒の中で? 騒いで目立つとお思いですの?」
「……だよなぁ……なんかないかなぁ……電撃でも出してみるか?」
 言ってエナが刀を掲げようとした時だった。
「……やめとき、死神」
 耳元で、そう囁く聞き慣れた女の声があった。
 刹那、エナは反射的に距離を取ろうとしたが――
 後ろを向くのが精一杯だった。
 そして、視線の先の『彼女』の顔を見て、一瞬動きが停止する。
「みっ! み、みみみ……妙天! なんっ? オマエ、なんで生きてんだよ!?」
「うっさいなぁ、今日はたまたまここに見物に来ただけや。したら、アンタおるやんか? また悪さしとんとちゃうかなぁ〜? って思とったら、案の定や。今度は何や? ダレの命狙ぅとんねん?」
 妙音天女の態度に、エナの額に青筋が浮く。
「また邪魔すんのか? もうウンザリだぜ」
 言って、再度刀を掲げようとした時、
「あ〜、待ちぃな。ホンマ、血の気の多いやっちゃで……今日はウチ、闘うつもりあらへんねん。せやけど、だから言ぅて、アンタの悪行を見逃すつもりもない」
「ほほぅ……んじゃ、どうしようっつーんだよ?」
「ふふん」
 エナの問いを鼻先で笑い飛ばすと、妙音天女は、人差し指を真上に突き出した。と同時に、吹き抜けの天井から二枚の板が降りてくる。
 それは頭上で――一枚が妙音天女の傍で止まり、もう一枚はエナの傍で止まった。
「まぁ、乗りぃな。アンタと違て、姑息な仕掛けなんてしてへんから」
「……ホントかよ……」
 訝るエナの耳元で、ムニンが耳打ちをする。
 ――挑発に乗ってみるのもいいかも知れませんわよ? ここで目立てば、目標が寄ってくるかも知れませんし――
 ――おお! それもそうだなっ! ――
 エナは頷くと、一足に飛び上がって板に乗った。
 と同時に、もう一枚の板に天女が乗る。
 刹那――
「そんじゃいくでぇ! カラオケ勝負! それもTPOに合わせてやなぁ! アニソン縛りやぁっ! あ、ちなみにリタイヤ許さへんから。背中見せたら、『死ぬほど』キッツい一撃食らわすで?」
 いつの間に出したものか、天女はマイクとスピーカーで、建物全域にそう宣言をした。
 一方、その『後付の条件』に、エナとムニンは筋目で顔を見合わせる。
 ――どーすんだよ、ムニン? オレ、『あにそん』なんて知らねーぞ? 歌か? 歌なのか? ――
 ――っても、しょうがないでしょう? こーゆー時は、我らが知恵袋、黒騎士様の出番ですわ――
 言って、ムニンがエナの頭に飛び乗ってくる。
 そんなエナ達の様子を一瞥もせず、天女は一瞬でゴスロリ少女に変身すると、エレキ琵琶を弾き始めた。刹那、どこからともなく現れたバンドが演奏を始める。
「ウチからいくでぇっ! 『神世紀ゴッドブレス』オープニングテーマ、『CuteでCultにEXPLOITATION!』 みんな聞いてやああぁぁっ!?」
『YEAHHHHHHHHHHHH!!』
 天女の号令に、会場が一斉に沸き立つ。同人誌即売会の会場は、もはやライブ会場と化していた。