追悼
いきとしいき 風待ちて菖蒲見る
もう会えますまい 身も代も篭る春
吉野山 桜追いかけ 坂を駆け
丸坊主 手の汗すべる 赤子の背
サフランの 花腐す手に 溜息し
叱られて 文月怖い 幼い日
五月雨に 隠れて吟ず 声深し
一番は 君手ずからに 出す玉露
むしったむしった 畑の夏草 八つ当たり
髪梳いて 櫛の白髪を 雛にやり
笹舟を 入道雲まで見送って
五月雨に 泣いた涙が 乾く日も
丸い背に 添って曲がる手 冬の朝
皺深く 握る毛布に 後ろ髪
雪かぶり 隠す咽元 冬の声
耳残る 五月のチャンバラ 笑い声
梅咲いて これが最後と 深呼吸
麦秋の 風すぐる頃 帰ります
夢覚めて 貴方いないと 泣く野菊