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心の中に

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持立(もちだて)藩五万石。
 南北に走る山脈を抱え、その眼下には広大な持立平野が広がっている。
人々は田畑を耕し、一見、潤っているかのようにも見える。
 しかし、藩主、持立長門守時常(もちだてながとのかみときつね)公は日々、鷹狩り、犬追う者などの享楽に溺れ、領民を顧みない人柄であったという。
 江戸時代も中期に入ると、武士はその本分を忘れ、風流に現を抜かすようになった。それも富める一部の武士のみである。
幕府は虎視眈々と改易の機会を伺い、ことあれば領地を没収し、大名のお取り潰しを行おうとしていたと言われている。
 時常公は無論、自ら藩を立ち上げた人物ではなく、家督を譲り受けた藩主である。主君としての自覚が欠如していたとしても、それは致し方ないところか。

 その夜、持立藩の玉置(たまおき)村の粗末な小屋で、小さな会合が開かれていた。集まっているのは皆、農民である。
 農民たちはこぢんまりと肩を寄せ合いながら、ひそひそと何かを唱えている。
 そして、農民たちの前には小さなマリア像と十字架がある。月明かりが小屋に隙間風を入れる小さな裂け目から、マリア像と十字架を照らしている。
「ああ、イエス様、我らを救って下さい」
 農民の一人の口から、呻くような声が漏れた。
「どうか、お年貢を少しでも……」
 別の農民が呟く。
 うずくまるように固まる農民たちの周りでは、無邪気にはしゃぐ小さな子供たちの姿が見えた。
 この玉置村には密かにキリスト教が流布されていた。当時、キリスト教が邪宗と呼ばれ、禁じられていたのは周知の事実である。
 ある日、この玉置村に立ち寄った宣教師が布教したと伝えられている。
禁じられた宗教でも、村人がそれに救いを求めたのには理由があった。それは領主、持立時常公の圧政である。
 時常公が享楽に溺れるほど、年貢の取り立ては年々厳しくなり、農民たちは悲鳴を上げるようになったのである。
 そればかりではない。時常公は己の享楽のために、農民をないがしろにしていたのだ。
鷹狩りの時などは、農民を動員させ、村でのもてなしを強要した。無論、粗相をした者があれば、その首は容赦なく撥ねられた。
時常公は人命をも軽んじる人物であったのである。
 そんな領主に対し、農民たちの不満は増大していく。
作品名:心の中に 作家名:栗原 峰幸