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ボクのプレシャスブルー

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4.ヒーローの条件



 帰宅後、楓に「時空戦隊プレシャスファイブ」を探してもらい視聴した。ウチに残っているのは中盤過ぎから以降の回だ。純輝も最初は何気なく見ていてはまったに違いない。
 なるほど、プレシャルブルーと言うキャラクターは分った。しかし、ストーリー面で少し引っかかる部分があり、そう言えばパソコンではこうした動画を視聴できたということを思い出し、パソコンを開いて動画サイトにアクセスする。
 そして、私は食い入るように何話も見て、最終回では涙まで流していた。純輝が同じ戦隊モノの中で特にこの作品に思い入れを感じる理由が解かったからだ。おそらく私がプレシャスブルーだと治人に言ったのも彼だろう。
 
 時空戦隊プレシャスファイブは、歴史を改ざんする悪者と戦う時空警察の物語。
 かのプレシャスブルーは不治の病に冒されている。そのことがリーダーのプレシャスレッドにばれて、彼はブルーにメンバーから外れるように言うのだが、ブルーはその時、
「人間誰だって明日は無事かどうかは判らないじゃないか。頼む、俺に最後まで任務を全うさせてくれ」
と、頑として譲らなかった。その気迫に負けたレッドはそのことを他の誰にも告げず、全員で敵を壊滅させる。
 そして、奇跡が起こる。今まで不治の病だったその病気の原因が解かり、手術と投薬で助かることが解かったのだ。今まで敵が捻じ曲げていた歴史が修正されたことによって、治療法が見つかったというオチ。ブルーはみんなに見守らながら手術室に消えていき、生還するという話だった。

「よしりんも最近プレシャスファイブにはまってるってきいたけど。やっぱしあれって、大人が見るもんだろ」
運動会からしばらくしたころ、純輝がニヤニヤ笑いながらそう言ってきた。
「治人に俺がプレシャスブルーだって言ったのは君だろ」
そんな純輝に私は唐突にそう尋ねた。
「いきなり何だよ」
「しかし、俺から言わせればあれは高広君のような気がするけどな」
だからこそ、思い入れたんだろう? 私はそう心の中で言いながら前に立つ純輝を見つめた。
「ううん、あれは……やっぱよしりんだよ」
それに対して純輝は苦々しくそう返した。
「ヒーローは生還できてこそヒーローじゃん。」
そして、彼はぽつりとそう付け加えた。
 
「治さ、お父さんに肩車してもらってる奴のことを食い入るようにみてたんだ」
すると、純輝は急に昔話を始めた。

−*−

「治、羨ましいか」
そう言った純輝を治人ははっとして見た後、俯いて頭を振った。
「よしりんはな、不死身のヒーローなんだぞ」
純輝はそんな治人の頭を撫でながら言った。
「よしりんが事故に遭った時、手術に13時間かかったんだってさ。もういつ死んでもおかしくない状態だったってさくらちゃんが言ってた。」
「そうなの?」
「そんなところから、よしりんは帰って来たんだ。さくらちゃんの旦那で、楓や治のお父さんになるためにさ」

−*−

「オレはただそう言っただけだよ。よしりんのことをプレシャスブルーだって言ったのは、正真正銘治だ。あの、運動会でいっしょに昼飯食った悠馬って奴いたろう」
「ああ、伏見悠馬君」
「あいつな、去年まで草尾って名前だったんだよ」
名字が変わった? そう言えば、そうだったような気がする。と言う事は伏見とは義理仲という訳なのか。私は伏見が妙に若っぽい感じがしたのも、父親になりたてだったからなのかと思った。男はその身で子供を育むことができない分、生まれてから“父親”になる者も多い。子供が親にしてくれるのだ。
「いつだっけかオレが迎えに行ったら、治があいつを殴ったって先生に怒られてんだよ。けどさ、治は絶対に謝ろうとしないんだ。『ボクは悪くないもん! 本当のことを言っただけだもん』って泣いてさ。」
治人が他所様に手を上げていたとは初耳だ。しかも、知らないこととはいえ、私は謝罪もしなかった。
「で、よくよく聞いてみたらさ、治がよしりんの自慢をしてたらしいのな。それ、そん時親父のいなかった悠馬にはキツかったんだろうな、『なんだよ、お前んとこのパパなんてショーガイシャじゃん。おじいちゃんみたいに杖つかないと歩けないクセに!』って言われて殴ったらしい」
子供と言うのは、まっすぐな分、相手の傷口にストレートに入りこむことを言ってしまうものだ。
「でさぁ、そん時治が言ったんだ。『お父さんの足にはね、チタンっていう金属が入ってるんだ。超合金なんだよ、不死身なんだ。お父さんはね、ボクの、僕だけのプレシャスブルーなんだ!お父さんはおじいちゃんなんかじゃないもん。だから絶対に謝らない!!』ってね」
 そう言えば、迎えに行った際、悠馬の母とはち合わせたこともあった。彼女は、言葉少なに保育士に礼だけを言うと、さっさと悠馬を連れて立ち去った。悠馬も母と言葉を交わしている様子はなかった。あの頃、母子は生活することにいっぱいいっぱいだったのかもしれない。そんな中、得々と私の自慢を始めた治人に悠馬は言いようもない苛立ちを覚えたのだろう。
 そして、自分がそんな風に悠馬を傷つけているとは思っていない治人は、私の名誉を守ろうとして、悠馬にかみついたという訳か。しかし、補強のためのチタンが超合金とは良く言ったものだ。
「だからさ、あの昼飯の時、名字の変わったあいつがすごくいい顔してるんでちょっとホッとした。正直、あいつと一緒に走るって分ったとき、ちょっとドキドキしたんだよな。」
プログラムには走る順番が記されていたが、名字だけだった。あの時競技が始まってから悠馬が同走者だと知って、純輝は内心焦ったのかもしれない。

 あれから時々悠馬が遊びに来るようになった。そして、妹を連れて迎えに来た彼の母の表情は、別人とも思えるほど変わっていた。
「悠馬のパパはさしずめプレシャスグリーンってとこかな、よしりん」
相変わらずその時も家に来ていた純輝は、ぽつりと私にそう言った。