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サーガイアの風見鳥

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 俺は再びコンピュータに飛びついて、マウスを乱暴に動かし、フォルダを何度も潜った。ああ、どうしてこんな面倒な構成にしてあるのか……。すぐに俺は例の動画ファイルを見つけ、それをドラッグして、デスクトップのゴミ箱アイコンに突っ込んだ。間髪入れず、ゴミ箱フォルダを空にする。その間も、ドアは叩かれている。一定のリズムを伴って、叩かれている。さらに、今度は携帯電話が青い光を発し、バイブレーターが作動する。着信だ。どうすればいいのか。視界はぼやけて、ほとんど文字が読めないくらいだった。飛蚊症の黒い固まりはどんどん大きくなり、そのうち視界が真っ暗に埋まってしまいそうだ。動転した俺は、Webブラウザを立ち上げてミニブログにアクセスした。メンテナンス中だ、アクセスすることが出来ない。「sorry」という文字が、ゴシック体で表示されている。俺はうなだれて、額を液晶ディスプレイに押しあてた。湿ったディスプレイは、暖かかった。

 俺はよろよろと立ち上がったが、なにかに躓いて転んでしまう。頭を床に強かに打ちつけ、全身に痛みが浸透する。しばし悶えて倒れたまま俺は躓いたなにかを手探りで探す。灰色の水着を着た、肌の白い、黒い長髪の綺麗な、少女のフィギュアだった。その変につくられた笑顔が、俺の方を見ていた。ドアはまだ叩かれている。俺はフィギュアを握りしめると、立ち上がって玄関に向かった。

 外は真っ暗だ。風見鳥はもうないが、涼しい風が吹いているのは分かる。視界は曖昧でよく分からないが、生ゴミの臭いに混じって、ビニルに似た妹の匂いがした。それから汗の臭いも。

「よう」

 上条の声だった。

「動画は消したか?」

 "消したとも!"

「まあ、どうせまたどっかからダウンロードしてくるんだろ」

 "だとして、君には関係のないことだ!"

「フィギュア、返してくれよ」

 右手に、美少女フィギュアの感触があった。肌触りは柔らかいが、強く握っても変形することのない芯の硬さがある。ふくよかな胸の造型に、指が這っている。人差し指の腹がフィギュアの唇を撫でていて、小指が内股気味に少し開かれた股に絡み付いている。

「その、あの、ご、五分、待ってくれる?」

「新しい企業にWebエントリしておけよな」

 顔は見えないが、上条はニヤニヤ笑っているようだった。風が止み、生暖かい汗が身体の内側に張りつくと、俺の下半身は疼き始めた。
作品名:サーガイアの風見鳥 作家名:不見湍