小説が読める！投稿できる！小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ！

　ベンチでアイスを舐め合う暮らしに憧れたわけではないが、坂上は少しでもいいのでムシャンガに違った景色を見せてやりたいと思った。そうとくれば早急にダイアモンド騒動に決着をつけなければ、と彼は三日三晩考えたが何も浮かばなかった。そして夜風に会おうと外に出たとき、ダイアモンドが皆内側から発光しているのに出くわした。少し小高いところにあった彼の住み家から見たその景色は降らない吹雪か氷雨を思わせた。彼は思いがけず両手を鳥を真似るように広げていた。ひとり旗になり身をはためかせているようだった。動かない景色と流れない障壁、すべてを胸に抱き慈しむような穏やかな構えだった。土星の環の中の一粒のようだった。
（環の中がリングの内側を指すのなら、俺は唯一無二だ。リングそのものの要素のひとつなら、俺はワン・オブ・ゼムだ――ふたつにひとつだ。どちらであっても構わないし、後悔もしない。今は涼しいし、最高の気分だ――うひょう）
　するとダイアモンドの群れは呼びかけられた羊のように彼へと集い始めた。それらは惑星直列のように彼の前で一列になりやがてぴくりともしなくなった。滲むように発光する一筋の道は遥か彼方の水平線までをもあらわにし、さらにその先まで続いているように思われた。彼は思いがけない至福に捕らわれた。ムシャンガと行ける、どこにだって行ける、出発だ、叶うぞ、どこまでも――しかし先頭の原石が超高速で彼へと飛び出した瞬間、彼の心をよぎったのは――