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イカズチの男

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イカズチの男
 
 
 四月初め。緑萌えいずる春。
 すっかり萌え切っちまって、入学式前だというのに桜は全部散った。かわりに綺麗に生まれ変わった緑の葉っぱが、枯れ木のような枝から吹き出している。四季危機。日本の特徴がまた一つ失われていくが、たぶん亀が坂道を上るくらいのスピードだから、違和感はない。思うに、俺が父親になって、順当にいって俺の子が小学校に入学する頃には、四月のカレンダーは桜じゃなくて若葉が主流になるんじゃないか。なる方に三百円。賭け仲間はなし。
 俺は白い縁にオレンジ色のレンズのサングラスを掛け、真っ白いロングのダウンジャケットを着て、実家の最寄り駅にある円形広場のベンチに座っていた。
 今は夜の八時なのだから、サングラスは完全に伊達。
 今夜はとことん変な奴でいようと決めていた。はっきり言って外から内から不審人物。通報された方がいい気がするが、未だにお巡りさんはやって来ない。日本って平和だ。
 しかしメル友同士が初めて会う時と同じ、決めておいた互いの目印なのだから、職務質問されても「この格好じゃないと連れに会えないんです」としか言いようがない。相手はどうか知らないが、俺は結構楽しみにしていた。
 暗いオレンジ色の視界に黒い影が揺らいだ。
 思わず立ち上がりそうになったが、ここはぐっと堪えてふんぞり返ったままでいた。こみ上げてくる笑いを一生懸命抑えた。無性におかしかった。だって、あいつの格好、見ろよ。
 黒い影は俺の前まで歩いてきて、ぴたりと止まった。縁の浅い黒い帽子にサングラス、真っ黒いロングコート。コートの下にはV字の黒いTシャツと黒いGパン。俺と並んだら、コントラストが激しすぎて仲が良いんだか悪いんだか、謎。
「面白いね、君」
 そいつはサングラスを少しずらしながら、明らかに笑いを殺して言った。
「面白いよ。」
 お前もかなり面白い。










 
 音川と会ったのは、ここから十日ばかり遡る、三月末の雷雨の夜だった。
 特急に止まれとは言わないが、通常の急行には是非とも止まって頂きたくとも世知辛いことに通り過ぎられる駅、それがうちの最寄り駅だ。
 駅の側には俺が通っていた公立中学校が建っていて、改札口を出て西口階段を下りると、丁度いい具合に懐かしの校舎が毎日拝めて涙が出そうだ。
 この学校には馬鹿に大きい講堂が付いていて、知らない奴が見たら大学に見えるらしい。真四角の硝子窓が均等に並ぶ様は、校舎の一部と言うよりは立派な公共ビルディングだ。学校行事以外に、一般のイベント等にも解放されている。
 その日も、俺はぼんやりと改札口を通過して、殆ど反射運動で西口階段に向かっていた。
 すぐに、叩きつける弾丸雨と雷雲から発射される稲妻のミサイルの襲撃。
 うきうきした気持ちで黒のビニル傘を差して、けれども階段は慎重に。雷が好きだってこけたら最悪。
 講堂には、もう十時近いというのに灯りがついていた。緞帳が上がっている窓から、四角い光が漏れている。
 どこかで見たことがある図だな。ああなんだっけこれ。気持ち悪いな。
 通り過ぎようとした時、雷様が怒りの一撃を放った。
 それはかなり格好良かった。
 空にひびが入って、そこから後光が差し込むように稲光が地上に到達し、落ちた。地響きがあって、半分濡れたGパンがビリビリと振動を伝えた。
 ふっ、と講堂に灯っていた明かりが全て消えた。今の落雷で停電したのだ。そして俺は、落雷の衝撃で思い出した。ああそうだよ。これ、
「テトリス」
「テトリス」
 誰かとぴたり、声が重なった。
 振り返ると、小さな滝の如く傘から流れ落ちる雨の向こうに、同じように目を向けているこいつが居た。
 暫く沈黙して、「どおも」と間の抜けた声でそいつは言った。

「オトガワです。」

 普通名乗らないだろ。
 たかだかちょっと同じ物見て同じこと思った人間がすぐ側にいただけで。
 なのに俺もおかしかった。
 落雷の力って絶大。
 見ず知らず。同い年くらいの優男。妙な符合を感じて妙な約束して、妙に改まって名乗って、今に至る。どこから湧いて出たよ。お前も。この俺たちの友情? もさ。


作品名:イカズチの男 作家名:めっこ