小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

だれか姉ちゃんを止めてくれ!

INDEX|2ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

「なぁ、姉ちゃん。物は相談なんだが」 
「ふぁむ」
「こんな往来の前でししゃも食うの止めない?」
「だが断る!!」
 断られた。よく漫画とかで遅刻寸前のキャラクターが食パンを咥えて登場するシーンを見るが、残念なことに今姉が咥えているのはししゃもだ。キュウリウオ目キュウリウオ科に属する硬骨魚で大人も子どもも大好きなあのししゃもである。それを朝から女子高生が登校中に貪り食っているのは異様な光景だ。ほら、同じ学校のヤツらから奇異の眼差しを向けられているじゃないか。 しかし、姉ちゃんはそんな事どこ吹く風で、「うまま、ししゃもうまま!!」とご機嫌な面持ちである。少しは俺の苦労もわかって欲しいのだが……。
「うわ……何やってんの……?」
「郁奈子か……見てわかるだろう。姉ちゃんが夢中でししゃも食ってんだよ」
「そんなの見ればわかるわよ」
 ――じゃあ聞くなよ、と言ってやりたかったがそんな事言おうものならまたややこしいことになるので止めておく。
 今話しかけてきたコイツは大河内郁奈子。俺の幼なじみで姉ちゃんの暴走を止めることの出来る数少ない人間だ。 
「何よその態度は。アンタが元気なく歩いてたから何か面白いトラブルでもあったんじゃないかと思って話しかけただけなんだからね!」「はいはい、そりゃあんがとな」
 姉ちゃん程ではないが郁奈子の相手もそれなりに疲れる。何せコイツは今話題のツンデレというやつだ。語尾に「だからね!」と付いた時、恐らく言っていることは本心ではない。だからその時の状況と台詞から読み取らないのだ。全く素直ではない。
「まぁ朝から姉ちゃんと一騒動あってな。学校行く前からヘトヘトだ」
「あのししゃもは?」
「朝飯だ」
「あげないわよ!!」
 ししゃもを取られると思ったのか動物のようにシャーッっと威嚇する姉。
「いりませんよ! ちょっと涼、アンタなんで止めないのよ? 周りから変な目で見られてるじゃない」
「あそこまでご機嫌になった姉ちゃんは俺でも止められん。とりあえず食べ終わるのを待つだけだ」
「朝からご苦労なことね」
「全くだ」
 上機嫌な姉を横目に二人で溜息をつく。
「でもね涼。今のアンタに告げるには残酷すぎるんだけど。悪い知らせがあるの」
「……余程の事っぽいな」
 郁奈子は真面目な顔で切り出してきた。この場合は恐ろしく悪い知らせが待っていると決まっていた。
「……兄さん、今日休みなの」
 それは死刑宣告とも取れる言葉だった。兄さんというのは郁奈子の実兄である大河内龍神之助のことだ。凄い名前だろう、俺は面倒臭いのでタッちゃんと呼んでいる。
「うへぇ……マジで?」
 タッちゃんの凄い所は名前だけではない。姉ちゃんの暴走を止められる唯一のクラスメイトなのだ。幾ら俺たちが止められると言っても学年が違う。一日の半分を過ごす学校では俺の代わりにこの危険人物を監視できる重要な人なのだ。そんな人がいないなんて今日一日どうなってしまうのだろうか。
「やばいな」
「ひょっとしたら今日呼び出されるかもね」
「何々、何の話? お姉ちゃんを仲間外れにするなんて酷いよ」 
 朝食を食べ終えた姉ちゃんが寄ってきた。別に仲間外れにしたつもりは無いし、第一ししゃもに夢中でこっちの話なんてろくに聞いてなかったじゃないか。
「タッちゃん、今日休むって」
「ふーん、どして?」
 姉ちゃんに聞かれ、俺は郁奈子に視線を送る。
「昨日、ウチの庭にある松の木の根元に生えてたキノコ食べて倒れたんです」
「あの馬鹿何してやがんだ……」
 庭に生えたキノコ食って倒れるとか何処の漫画だよ。
 タッちゃんは基本しっかり者だ。だけど今回のように極稀にアホになる。常人なら思いも寄らないことを平気でやってのけるのだ。その結果は大抵悪い方向に傾く。
「そういっても昨日大変だったのよ。松茸だ~、ってはしゃいで色も形も違うしどう見ても別のキノコなのに。そしたら私が止める前にパクリって生で。口からピンク色の泡を噴いてたわ」
「大丈夫なのか、それ」
 人間はどうやってもピンクの泡は噴かないだろう。ちょっとタッちゃんの事が心配になってきた。
「大丈夫よ。出てくる時に行ってらっしゃいって言ってくれたもの。白目むいてたけど」
「……それ絶対大丈夫じゃねぇよ」
 さらばタッちゃん、もう会えないかも知れないな。ちなみに姉ちゃんはその話を聞いて大ウケしていた。
「そんなことよりちょっと急ぎなさい。このままじゃ遅刻しちゃうわよ」
 実の兄の一大事をそんなことで片付ける郁奈子に軽く恐怖感を抱く。が、まぁ所詮そんなことなので俺たちは少しペースを上げ学校へと向かった。