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アダムとトヨタ

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アダムとトヨタ(2)




 七年前、九歳だった僕を父は突然迎えに来た。母親が早くに死に、施設に入った僕は、その頃ちょうど老年の林夫妻の元に養子に入るところだった。


 「これから君は私たちの息子だ。どんどん甘えてきなさい」


 そんな和やかな挨拶を林夫妻と交わしていた時、「トヨタ、ボクの息子、デス!」と乱入してきたのが父だ。あの時の皆のぽかんとした表情は一生忘れられない。僕も同じく唖然と口を開いて、突然の乱入者を見つめた。


 「トヨタ、ボクの子デス! ボク、カナエ、息子デス! 返セ、クダサイ!」


 佳苗は、僕の母の名前だ。僕には、父がいた記憶がなかった。母が父について語っているのを聞いたこともなかった。ただ、僕の≪皆川豊太≫という名前は、父が付けたのだという事だけ教えてもらっていた。だけど、その時の僕は「冗談だろ」と激しく言いたかった。金髪碧眼の美形が僕の父親なわけねーじゃん。

 そのまま、周りの人間のどん引きな空気にも気付かず、父は「返セ、クダサイ!」と喚き続けた。騒然としたまま、その場はお開きとなり、僕の養子の件は後日に引き伸ばされることになった。それでも、その時の僕は、自分が林夫妻の子供になることを疑っていなかった。父があんな阿呆な行動に出るとは思いもしなかったからだ。


 三日後、林夫人から養子破談の電話が掛かった。それだけでも僕は驚愕したのに、施設長が「良かったわね。これでお父さんのところに行けるわ」と言ったときは、更に目玉が飛び出しそうになった。


 自称父親の怪しい外国人に僕を任せてしまうの?
 え、嘘でしょ?
 マジで?


 残念ながらマジだった。僕はその次の日、ウキウキ顔の父に引き取られた。このまま海外船にでも乗せられて売り飛ばされるんだ、と僕は信じ込んでいたが、結局売り飛ばされることはなかった。父は僕を古びたアパートに連れて行って、「コレカラ、一緒、ズットズーット」と嬉しそうに笑った。


 そういえば、数年後に聞いた話によると、父は林夫人と施設長を誘惑して、事を上手く進めたらしい。いわゆる肉体交渉という奴だ。「何て父親だ!」と僕は嘆いた。父は「トヨタ、ト、一緒にイタカッタンダもん」と唇を尖らせて、いじけた。僕は、どうして父が僕に拘るのか、さっぱり理由が分からなかった。


作品名:アダムとトヨタ 作家名:耳子