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絶対不足浪漫譚

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五、あたしにはもう一言が足りない


 実はあたし、高所恐怖症なの。
 たった一言、その一言が言えていたら。あたしは寒さと恐怖で震えながらもうずっと不毛な後悔を延々とリピートしている。親友のてっちゃんは男勝りな元気っ子で、あたしのことを世間知らずな箱入り娘だからといろいろな所へ連れ出してくれる。ありがたい。そして今は、ありがた迷惑だった。
 高度百メートル? 風任せ運任せな、てっちゃんその人のような気まぐれな気球に乗せられて、あたしは息も絶え絶えに素数やフィボナッチ数列を数え上げて心の平穏を保とうと必死になっていた。1は素数には含まれない。
 てっちゃんはというと曲芸師も少なからず驚くであろう身の軽さと柔らかさで、狭い籠の中を大いにはしゃぎ回り、地上の景色を楽しんでいるようだ。落ちてしまえっ!
 どんどんと思考が悪い方向へと進んでいくあたしをさらに驚かせる出来事が、海も近づいてきた頃に地上からやってきた。てっちゃんが口笛を吹いて、あたしを無理やり立ち上がらせて地上に目を向けさせる。落としてしまおうかしら、この鉄頭っ!
 あたしは恐怖に目を回しながらもてっちゃんの力強い手に支えられて地上に目を向けた。すると、波打ち際の砂浜にデカデカと文字が書かれている。あたしへの、それはラブレターだった。
『紅華子さま、好きです。ゼミでの真剣な姿に惚れてしまいました。自分なんかは貴女の様なご令嬢にはまるで釣り合わないただの貧乏学生ですが、貴女への想いはこれくらい大きいです! 霜山大知』
 てっちゃんが結婚式の定番ソングを熱唱し始めた頃になってようやく頭が文面を理解する。同時に脳内が一瞬で沸騰して、身体中がかぁっと熱くなる。夕暮れまでまだ時間が有るというのに、あたしはこれ以上なく真っ赤に染め上がってしまっている。我知らず脳内で飲み込んでおくはずの言葉が口から飛び出してしまう。
「恥ずかしい嬉しい、飛び降りてしまいたいっ!」

作品名:絶対不足浪漫譚 作家名:空創中毒