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とある少女が世界を嘲笑した日

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「あの、進路指導の先生が少し話したいとの事で・・・よろしいでしょうか?」

「あ、えっと・・・」


少女の母親は困ったように彼女に目配せした。

少女は薄く笑んだ。


「良いですよ、センセー」

「なら、進路指導室へ行ってもらって・・・待っているはずなので」


話が終わり、立ち上がると一礼して教室を退室する母親にはついて行かず、少女は担任の教師にひらりと手を振った。


「センセー、さよならー」

「? えぇ、さようなら」


不思議そうにそう返した教師に、少女は満足そうに微笑んだ。







「ご息女の事について、少しお話があります」

「はい・・・何でしょうか?」


母親は疲れきった声で答える。

強面の教師は、少女を見遣った。

少女は耳朶に開けられたピアスを付け直していた。


「彼女は最近素行不良が目立ちます。流石に目に余るものがある。風紀を乱しているという意識は無いのかどうかは知りませんが、少なくとも女子高生に相応しいとは思えません」

「あの、先生・・・!」


母親はたまらず身を乗り出して全てを打ち明けようと思った。

余命僅かな我が娘が、何故最期のその時までつまらない、自分達大人が作った理想に当て填める必要があるだろうか。

せめて最期くらいは好きなことを沢山して、やりたかったことをさせてやりたかった。

だが、口を開いた母親が乾いた唇をゆっくりと閉じた。

母親の手のひらには、少女の手のひらが重ねられていた。


強面の教師は不振そうな顔をしたが、やがて再び話を再開させる。


「お前は将来の事を考えているのか?そんな事では働く事は出来ないぞ?進路は決まっているのか?どこに行くのか、行きたいのかくらいは決まっていないと先は明るくないぞ?そんな態度でこの先やって行けるとでも・・・おい・・・何か言ったらどうなんだ!」


バン、と机が強く叩かれた。

だが、少女は可笑しそうに笑いだした。

来るはずも無い未来を生きられないと否定された事が酷く滑稽だった。


「センセー、こんな事考えた事ないの?」

「おい、ちゃんと話を・・・」

「明日は死んでるかも、とか」


そう言った少女の目からはあの日の様に光を失っていた。


強面の教師は思わず息を呑む。

肝が冷えたような、内蔵に氷を詰められた様な寒気に襲われたのだ。