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無題if 赤と青 Rot und blau -罪と罰-

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罪と罰4-2







「それで、頼みたいことってなんだい?」

通路を挟んでベンチに腰を下ろしたアメリカとプロイセン。プロイセンは姿勢を正し、口を開いた。
「…棺の移動を頼みたい」
「棺?誰のだい?」
どんな頼みかと思えば。アメリカはぱちりと瞳を瞬いた。
「フリードリヒ大王とその父、ヴィルヘルムの棺だ。…ベルリンがソ連軍に占領される前、俺はベルリンに残っていた部下に棺をデューリンゲンの岩塩坑に移動するように命じた。…空襲で棺が燃えカスになるのも、ソ連兵に壊されるのも嫌だったからな」
プロイセンは膝の上で組んだ指を組みなおし、アメリカを見やった。
「…頼めるか?」
「もちろん。君の上司のフリードリヒ大王には俺も恩があるからね。喜んでやらせてもらうよ」
アメリカが笑って言うのを、不可解そうにプロイセンは眉を顰めた。
「恩?」
「あれ、知らないのかい?俺の独立を認めて、俺を国として通商条約を最初に結んでくれたのは君なんだぞ」
「え?そうなのか?」
今までそんなこと知りもしなかった。プロイセンは赤い目を見開き、アメリカを見つめた。
「知らなかったのかい?」
「…いや、あー、そう言えば、親父がそんなことを言っていた気がする…」
七年戦争後、士官学校の教官を命ぜられ、外政より内政に従事していた頃だ。ぼんやりと思い出し、プロイセンは頷いた。
「独立戦争の初めの頃は軍もなくって、指揮系統も確立してない、武器と言えば鍬か鋤みたいなのしかないし、民兵で装備も全然なくってさ、本当にしんどかったなぁ」
アメリカは目を細める。
「君のところの士官シュトイベンのお陰で、軍もやっとまともになってさ」
「シュトイベンか。懐かしいな。あいつは勤勉で頭のいい男だった。…そうか、あいつはお前のところに渡ったんだったな」
プロイセンは懐かしそうにほんの少しだけ硬かった表情を緩めた。
「銃剣術とか、訓練は厳しかったけど、そのお陰でイギリスに勝てたんだぞ」
「銃剣術か。欧州の戦争は殆ど近距離の接戦を好まなくなって、銃砲弾に頼る傾向にあったからな。銃砲は弾を込めるのに時間がかかる。銃剣術はそれを突くのにはいい手立てた。それに、突進するだけなら細かい訓練もいらねぇしな。後は兵が統率を乱すことがないようにそこを徹底すればいい」
「うん。今なら解るよ。あのときの俺は本当に子どもで銃器の取り扱い方とか、知らないことばかりで恥ずかしかったよ。本当に俺は何も知らなかったんだって。イギリスは何も俺に見せようとしなかったんだって、思い知らされた」
アメリカは言葉を切った。
「シュトイベンから、君のことを色々聞いたんだ。俺はさ、イギリスやフランス、スペイン以外の国をそのときは知らなかったからね。七年戦争の話とか色々してくれたんだぞ。どんな苦境にあっても王と君は諦めなかったって聞いてさ。俺も頑張れたんだ。…ずっと俺は劣勢だったしね。心がいつ折れてもおかしくなかった。そんなときに君の話を聞いたんだ。…戦争中、君も俺と同じだったんだろう?心が折れそうになったりしなかったのかい?」
レンズの奥の青い目が真っ直ぐに自分を見つめる。それをプロイセンは見つめ返した。
「…折れそうだったぜ。でも、ここで折れたら何も残らねぇ。…俺の為にひとの幸福を捨てた王を失うことだけはしたくなかった」
切なげに伏せられる赤。アメリカはその赤を見つめる。
「…あんな上司にはもう二度と出会えない。フリッツは俺の運命だった。…俺の始まりは国ですらなかった。長いこと流離って戦って、多くのものを奪い、また失いながら生きてきた。…そんな俺が国になって、欧州の列強に名を連ねることが出来たのは、フリッツのお陰だ。…あんな奴はきっとどこにもいやしない。フリッツは最初は俺を憎んでいた。でも、最後には自分の全てで俺を愛しくれた。フリッツが俺を愛してくれなかったら、俺はもうここにはきっといなかった」
プロイセンの頬を一筋の涙が滑り落ちた。
「…なのに俺は、生きてる間与えてやれなかった、死して漸く訪れた安寧さえ守ってやることが出来ない。それどころか、この戦争に巻き込んでしまった。…どう、許しを請えばいいのか解らねぇよ…」
膝の上、ぐうっと握り締められた拳の上に雫が落ちる。それにアメリカは視線を落とした。
「…ひとを愛するのは辛くないかい?」
「辛い。でも、ひとが「国」を愛してくれた分だけ、「国」はもっと、ひとを愛せるようになる。俺は親父が、国民が愛してくれた「プロイセン」を愛してる。こんな幸福、他に俺は知らねぇよ」
涙に濡れた頬を拭うこともせず、顔を上げたプロイセンの赤は誇らしげだった。アメリカは小さく息を吐く。
(…彼が、…俺に手を差し伸べてくれたのが、イギリスではなく彼だったら、…何かが変わっていたんだろうか?…いや、それは仮定だ。…きっと、あのとき出会っていたとしても、彼は俺を気にも留めなかった…)
プロイセンが愛しているものは自国の国民と領土だ。それ以外のものなどどうでも良いのだ。国とはそういうものだ。アメリカはプロイセンの赤を見つめた。
「…こんな状況になっても、自分が「ドイツ」になる気はないんだね」
「…俺は「ドイツ」じゃないからな。…この名以外の名前はもういらねぇよ」
プロイセンは笑うと濡れた頬を拭った。
「…そっか。フランスとイギリスが君を「ドイツ」にすればいいと言ってたから聞いてみたんぞ」
「断ったぜ。「ドイツ」が犯した過ちは「ドイツ」が償う。…アメリカ、お前はドイツと年が近い。出来れば、友達になってやってくれ。俺はあいつにいろんなものを与えてやったけれど、俺には与えられなかったものがあった。欧州にはドイツより若い国がいない。いるのは古参の食えない連中ばかりで打算無しには付き合うことも出来ねぇ。腹を割って話せるような友人が出来れば、変わると思う。…この先、幾多の困難があいつには待ち受けているだろう。俺が支えてやることが出来ればいいんだが、俺ははどうなるか解らないし、最悪、消失るかもしれない。俺はもうあいつを支えてはやれない。…ドイツを頼む」
立ち上がり、頭を下げたプロイセンにアメリカは驚いたように立ち上がり、リアクションに困り、わたわたと手を左右させると、息を吐いた。
「そんなこと言われなくても、そうするつもりだったぞ!俺の回りは年寄りばっかりだしね!年の近いドイツと友達になりたいって思ってたんだぞ!」
「…そっか」
ほっとしたような顔を上げたプロイセンにいつかのイギリスの顔が重なる。アメリカは視線を逸らした。
「…ドイツのこと、よろしく頼む。頑固で真面目で融通が利かないが、根はやさしい子なんだ」
「…解ったんだぞ」
そう言ったプロイセンの赤は慈愛に満ちていた。軍事国家だと聞いていたから、怖いというイメージがあったが、そうではない。異端の赤はやさしい色をしている。その赤を一度伏せて、プロイセンは視線を上げた。
「…棺の場所はヘルマンに伝えてある。…図々しいんだが、お前の国に亡命したヘルマンの家族がいる。出来ればそのまま、ヘルマンを家族の元へ連れて行ってやってくれ。頼む」
再び、頭を下げたプロイセンにアメリカはまた息を吐く。国民のひとりの為に頭を下げるのを厭わない国など初めてだ。