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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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薔薇回廊

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ボクはそこがどこだかわからなかった。
 左右は緑の壁に囲まれ、石畳の廊下は蛇のように曲がりくねり、どこまで続いているのかわからない。
 芳しい薔薇の匂いが鼻を突く。
 壁は薔薇の蔓で形成され、ピンク色の薔薇たちが咲き誇っていた。
 ――薔薇回廊。そんな名前が頭を過ぎる。
 行く当てもなく、ボクは薔薇回廊を彷徨い続けた。
 昼も夜もなく、時間の流れはわからない。
 倦怠感が身体を覆うが、それは疲れとは違う。
 胸が苦しく、吐き気を催すが、全ては自分の思い過ごしだったと気づかされる。
 全ては幻で、全ては現実だった。
 ここがどこかだかわからない。だが、そんなことは、どうでもいいことだった。
 ボクの頭の中は空虚の怪物に侵食されていく。
 どのくらい歩いたのだろうか。
 もしかしたら、この場でじっと立ち止まっていたのかもしれない。
 なにかを探すでもない。だから、歩く必要もなかった。
 空を見上げる。だが、そこには青空はない。あるのは灰色の空。
 淀みが揺ら揺らと炎が瞬くように蠢いている。
 空だと思っていたものは空ではなかった。それは蟲の大群だった。
 小さな虫たちが空を羽ばたいている。そう思うと、耳障りな羽音が聞こえてくる。
 耳障りな蟲たちはいらない。
 蟲たちがぼとぼとと地面に落ち、そして燃え上がって死んだ。
 陽炎は美しく、妖艶とした輝きと揺らめきに薔薇回廊が包まれた。
 薔薇は決して燃えなかった。そう、炎は薔薇を包み込んでいるが、薔薇の美しさには劣る。
 炎の中で誰かが涙を流している。
 すすり泣く声を聞いたボクには少女が見えた。
 炎の中で少女がうずくまって泣いている。
 ボクはが少女を抱きしめると、少女だったものは死体に変わり、ボクの身体が真っ赤な血に染まった。
 血の香りが辺りを包み込み、少女だったものからは蛆が湧き、やがて少女だったものは灰に塵に変わった。
 朽ち果てる砂はボクの身体を擦り抜けて、風と共に去っていった。
 風は高笑いをあげて、全てを嘲る。
 炎と血は薔薇を彩り、死は生を与えた。
 そう、ボクはいかなくてはいけない。
 だから、歩いた。
 薔薇回廊がどこまで続いているかは、ボクは知らない。
 もしかしたら、永遠に続いているのかもしれない。
 初めは終わり。
 そうだ、ボクは少女を探さなくてはいけない。
 薔薇回廊はどこまでも続いている。
 左右は薔薇の壁に囲まれ、空には蟲が羽ばたいている。
 そして、少女がどこかで泣いている。
作品名:薔薇回廊 作家名:秋月あきら(秋月瑛)