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時の部屋

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 カバンについているファスナーをすべて開き、大きく口を広げて私たちに差し出す。手鏡や教科書、筆記具、演劇の教則本まで全ての荷物が見えた。他の一年生もそれに続く。
 ここまでされて、見せないわけにはいかなかった。
 私たちは仕方なく自分のカバンを持った。それぞれファスナーを開けて待機し、順番に中身を公開していく。
 私もカバンを手に取り、ファスナーを開けていった。比較的シンプルな形なので、開くところもそんなに多くない。メインの収納に、側面のサブ収納、ほとんど飾りの小さなポケット。メインにもサブにも現金の入った封筒らしきものはなかった。当たり前なのだが。念のため小さいポケットも確認すると、何か見慣れないものが小さく折りたたまれて入っている。何かの紙のようだった。注視すると、油性マジックで書かれた"演"という文字が読めた。
 全身から血の気が引いた。
 まさか。
「はい、最後明日香ちゃんね。明日からみんなで探してみようよ。きっと見つかるよ」
 一緒にシャワーを浴びた友人がそんなことを言って、吉岡を元気づけていた。私は生きた心地がしないまま、カバンを部室中央のベンチに置いてファスナーを開けた。ポケットは開かないままに。
 全員でそれをのぞき込み、何人かがほっと溜息をついた。
「……やっぱり、誰も盗ってるわけないか」
 あたりまえよー、ともう一人が返す。弛緩しかけた空気はしかし、坂井の一言によって再び張りつめた。
「先輩、念のためそのポケットの中も見せてくれませんか?」
 冷や汗がこめかみを伝った。全身を冷たい風が吹き抜けていくような、何か無数の小さな生き物が全身を這いまわるような、ぞわぞわした感覚を覚える。心臓の鼓動だけがいやに響く。何を、何を恐れているのか。私は無実だ。何かの間違いで入っているだけだ。もしかしたら全く関係のない何かかも知れない。それを私が入れて忘れてしまっているだけかも――
 ポケットを開けた。
 そこに入っているものを見て、吉岡が息をのみ、ひっ、と引きつるような声を出した
「こ、ここ、これ、これ」
 私を除いた全員が怪訝な顔で吉岡を見つめる。
「これ、地区大会の予算。入ってるの、この、封筒の中に」
作品名:時の部屋 作家名:諫城一