その訳は
綺麗な夕日が差し込む教室で、彼女は彼女の前にいる彼に問いかける。
彼は帰り支度をしながら困ったように口元をゆがめると、返事をすることなく顔を背けた。
「先月にはいたじゃないですか。髪の長い綺麗な人。別れちゃったんですか?」
いたずらをするように、彼を責める。
「別れたよ」
平坦に、躊躇無く、彼はにこやかに答えた。
教室の中には、彼女と彼しかいない。でも、ここは彼らにとっての特別な空間ではない。あちらこちらに放置された鞄が、いつでも主人を待ち続けている。いつ誰が来てもおかしくない、当然の領域である。
蛍光灯は消されていて、廊下も暗い。日中の喧騒こそ無いが、それでも階下で談笑する生徒の声は、反響しながら校内を駆け巡る。小さな喋り声でもこの時間であれば、この静けさの中であれば、それほど遠くない場所からでも聞こえてしまうだろう。
彼女はそれを知りながらも、お構い無しに言う。
なぜ別れたの? 寂しくないの? つまらなくないの?――そんなくだらないことを。
彼は子どものいじめに似た彼女の問いかけに、淡々と答えていった。
わからない。寂しくない。つまらない。辛くない。
彼は嫌な顔をするわけでもなく、帰り支度を終えた後は椅子に座って彼女の話を聞いたり、答えたりしていた。
「じゃあ先輩。私と付き合おうよ」
彼女はにっこりと笑って、彼の目をみつめる。嘘ではない、本当のことで、彼女は彼が好きだと言っているのだ。
そんな真面目な彼女の目を見てにっこりと笑む彼は、嘲笑するわけでも怒るわけでもなく、ごまかすこともせずに「ううん、付き合わない」と断った。
「どうして?」
またかと、呆れたように、だだをこねる猫のように。彼女はため息をした。
もう何度もした会話。半年前からし続けた告白。以前はもっと少女らしく、恋する乙女のように恥じらいと緊張感とを持って告白していた。今はもう、当たり前のような、日常の会話になっていた。
どうして? と聞かれても、彼は答えない。彼女がいくら好きだと言っても、彼は無視して他の女の子と付き合う。もう何度も、何度も。付き合うのも早ければ別れるのも早い。理由は、わからない。
「なんで、答えてくれないんですか?」
悲しむような目で、彼女は彼に問う。
彼は答えず、微笑むままである。