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【BSB】 放課後

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校舎の影が校庭に覆いかぶさるように、隠すように長くなる頃、やや冗長なチャイムの音が学校を中心に付近へ響き渡る。
抑え込んでいた熱が吐きだされるように、校舎から白いシャツが目にも眩しい生徒達の波が吐きだされる。都心に近いこの学び舎は中高一貫の私立で様々な状況の生徒たちで溢れていた。教室に居残る姿もあれば、塾に走る背中、ため込んだうっぷんを晴らすように白球を追うユニフォーム姿もある。そんな中、図書館へ勉強をしに行く学生に交じって、本を読みながら歩く学生が向こうの校舎に見える。白坂瑞希。相変わらずだらしない格好で小脇に本を抱えながら読み歩きをして、よくも何かにぶつからねぇものだ。

そんな妙な感心をしていると、隣の美術室にも乾いた足音をたてて数人の学生が入ってきた。
俺は生来の面倒くさがりから部活動の顧問なんて御免だったが、ここに就任した条件の一つが部活動の顧問だったからしょうがない。部活動つったって体育系みたいに競争して結果を出すとかじゃないから、絵を描くなり、彫像を掘るなり好きにさせていた。
そう思いながら珈琲でも入れるかと、ぼんやりと窓枠に寄りかかって外を眺めていたら、暗い部屋の奥で衣擦れの音がした。
あぁもうこんなに暗いのか。
「おはよう」
「…はよぅじゃないでしょ、まだ五時半か」
卒業生だけあって、チャイムの音と空気で時間がわかるらしい。
春先とはいえ、今年はまだまだ肌寒いから、何も着ないで寝ころぶのは寒かろう。そう思いながらも窓を閉めたりはしないが、風邪をひかれたらかなわねぇ。仕方なく灰皿で灰が崩れたばかりの吸いさしを加えて、空の電気ケトルに水を入れた。こんな乾燥した寒さはイギリスの春先を思い出す。ふとF&Mの紅茶が飲みたくなったが、そんな御大層なものがここにあるわけもなく、どうせ味なんてわかりゃしねぇ。
自嘲して、マグカップを二つ用意した。ケメックスのガラスにフィルターを嵌めて沸騰する前のお湯をちょろっとかけておく。挽いた豆を数杯入れて細い口からゆっくりと真ん中が盛り上がるように粉を湿らせて、一度膨らむのを待って、ゆっくりと茶色の泡が崩れないように細く長くお湯を注いでいく。たちのぼる珈琲の香りを深く胸に吸い込むと、人生そんなに悪いものじゃないかもと思えてしまう。が、そんな大した人生は送っちゃいねぇ。
ごそごそとその辺りに落ちている服を拾って毛布の下で身につけている奴が顔を出すのと、最後の一滴がケトルから落ちるのがほぼ一緒で蒸らしながら最後の一滴が落ちるまで待つ。ケメックスで淹れたての珈琲には砂糖もミルクも不要だというのが持論。なので、ブラックのマグカップを差し出すとぐちゃぐちゃの毛布を抱えるように抱きこんだやつが両手で受け取ってにっこりと笑う。こないだ卒業したくせに、あっという間に就職先をドロップアウトしたろくでもねぇ野郎だ。
『だって、先生は僕がこんなことをするって教えてくれなかった』
と、ザ☆ゆとりな理由を堂々と吐くのに手を出したのはどういうことかな。
作品名:【BSB】 放課後 作家名:だい。