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ゴミ箱から腐臭

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「やっぱり女子としてこれはどうかな?って思うの」
「カナ、ほんと優等生な」
「いやだなあ、見たくない見たくない」
 三人の目の前には『2−1』と書かれたゴミ箱。しかもゴミが限界まで積まれ、あと少しの刺激でゲシュタルトの崩壊が起こりそうなのが見えていた。
 しかもなんか臭い。

 ユキナはげんなりとした顔で、異臭漂うゴミ箱を一瞥した。
「きっと弁当の残りが入っているんだよ。持って帰れよなーそういうの」
 ミナをきょとんとした顔で、隣のユキナを見上げる。
「コンビニのでも?」
「そういうのは、意地でも喰いきって欲しい」
「えーあたし無理」
「食える範囲だけ買えばいい話だろう。菓子ばっか食ってるから、メシが入らないんだ!」
 ユキナに頭ごなしに怒られて、ミナはへらっと笑った。
「ユキナ、お母さんみたい」
「ってことは、ミナは親から同じ事を言われているわけだ」
「えへへへ」
「えへへへ。じゃない!」
「はい、そこの二人現実逃避しない」
 カナは手を叩き、二人を注目をさせる。
「ゴミを捨てに行かないと、次のゴミが入らないの。ほら持って」
「うわーん。やっぱりミナも行くんだ」
 ミナは可愛く泣き真似をするが、同性にはそんな手は通じるわけがない。
「当たり前だ。ほれこれミナの分」
「うわーん」
 ゴミ箱を押しつけられ、ミナはものすごく嫌な顔で渡されたゴミ箱を持った。
「うう、臭いよぉ」
「この2〜3日暑かったから、モノが腐りやすいのよね…」
「カナ、ものすごく所帯臭いコメントありがとう」
 ミナが小さいゴミ箱、カナとユキナが2人で大きいゴミ箱を持ち、放課後の廊下を歩いてゆく。
「激しく疑問なんだが、どうして掃除当番がゴミを捨てないのだろう?」
「面倒だからじゃない?」
「そりゃわかるけど、面倒だからほったらかしにしたら、さらに面倒になるじゃないか。私らが捨てなきゃ、ずーとあのまんまだ。なんていうの?ほら「そのうち誰かがやる」みたいな」
「そうね。だから地球環境がおかしくなったのね…」
「いや、そこまで話を広げなくてもいいから」
「ミナはエコバック派だよー」
「じゃなくって! …私が言いたいのは、どうせあいつがやるから、やらなくてもいいっていう態度がいやなんだ」
 怒りで頬が染まる友達の横顔を見つめ、カナは優しく微笑んだ。
「ユキナは優しいね」
「ええ、なにそのコメント。いまの話からどうしてそうなる!」
「はいはい。ミナもユキちゃんは優しいと思いマース」
 ミナは元気よく手を上げて主張し、カナと仲良く顔を見合わせ”ねー”っと声を合わせた。
「ちょっとまて、君たちおかしい」
 途中で話について行けなくなったユキナは、きゃっきゃと盛り上げる二人にストップをかけるが、その程度じゃ止めてくれない。
 いたたまれなくなってそっぽを向くユキナを、ミナがからかう。
「ユキちゃん顔真っ赤ーぁ」
「やかましい!」
 恥ずかしさを誤魔化すため、ユキナは拳を振り上げる。ミナはわざとらしく甲高い声をあげて逃げようとしたが、場所が悪かった。
「ひあ…」
 足下不注意で、ミナが階段を踏み外してしまった。
 後ろ向きで倒れていくミナの腕をユキナがあわてて掴み、自分の方に引き寄せた。
「危ないなあ、もう」
「えへへへ…ありがとう」
 かこーんかこーんという音と共に、ミナが持っていたゴミ箱が階段下に落ちてゆく。
 三人は同時に異臭漂うゴミが散乱する地獄絵図を脳裏に描いた。
「落とすなよ、ミナぁ…」
「だって、ユキちゃんがぁぁぁ」
「仕方ないでしょ、はやく拾わなきゃ」
 どっちにしろゴミを捨てるためには階段を下りなくてはならないのだ。見たいような見たくないようなそんな心境で、三人は階段を下りていった。

「ゴミ箱、あったね…」
「そうね…」
「ゴミは…?」
 予想に反してゴミは広がっていなかった。ユキナは転がっていたゴミ箱を拾い上げ、中を確認した。
「ほらほら、あれだけ落ちたのに、ゴミがこぼれてない!」
 見ろ!とばかりに、ユキナは二人に見せびらかした。
「固まっているのかしら?」
「どんだけ、ゴミ詰めてんだよって感じだな!」
「ちょーだらしなーい」
 落とされてもゴミを離さなかったゴミ箱の根性とか、そこまで溜め込んだクラスメイトのだらしなさが妙におかしく、夕日が差し込む校舎の中で三人は声を上げて笑った。

「手伝ってくれて、ありがとう」
「どーいたしましてカナちゃん。お礼はコーヒー牛乳でいいよ」
 差し出したミナの手を、ユキナがぺちんと叩く。
「あほか」
「…さっきの「誰かがやるから、やらなくていい」って話なんだけど、あれ私の事でしょう?」
 急にそう切り出され、ユキナはどう答えていいかわからず、黙り込む。
「ま、なんとなくそうだろうなーって判ってるからいいの。私がゴミ出しをちゃんとするから他の人はさぼっちゃうのよ。
 でもいいの。私の中では、溜まったゴミは溜めとくという選択はないの。誰かがやらなくちゃダメなら、私がやるって決めてるの。それに私には、手伝ってくれる気の良い友達がいることだし」
 カナは二人の顔を見比べて、にっこりと笑った。
「巻き込み決定かよ…」
 額に手をあててため息をつくユキナに対し、ミナは嬉しそうにカナの腕に抱きつく。
「友達だもんねー」
「そうそう友達。友達は助けあわなきゃ」
「そーだけどさー、なんか納得しかねるのは気のせいか?」
 頭を抱えるユキナに、ミナとカナの楽しそうな笑い声が響いていった。


学生日常10 お題「ゴミ箱から腐臭」
作品名:ゴミ箱から腐臭 作家名:asimoto