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日常茶飯事

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私服通学に一番ときめいていたのは、受験前だったかも。

「あーやー 早くどいてよー」
 朝しゃこしゃこと歯を磨いていると、妹が洗面所と廊下を仕切っている花模様の暖簾の間から顔を出して、こちらをにらんでいた。
「まだ、終わってない」
 ぐぐもった声で答えるが、妹はそんなのは関係ないとばかりに、私と洗面所の間に強引に潜り込んだ。
「ちょっと!」
「いーじゃん。うがいだったら、キッチンでもできるでしょ」
 妹は勝者の微笑みを鏡に映すと、鼻歌を歌いながらヘアブラシで髪を梳かし始めた。
 動く気配すら見せない相手に見せつけるように、わざとらしく肩を落とすが、妹は鏡の中の自分の顔に夢中で気づきもしない。
 しかたないので、歯ブラシをくわえたままキッチンに移動する。
 キッチンでは家族全員のお弁当の準備をしている母がいた、コンロにはまだ卵焼きの甘いにおいが残っている。
 私の気配に気付き、母が振り向く。
「あらあら、追い出されちゃったの?」
 そう言って、私にシンクの前を譲ってくれた。
 水飲みコップでうがいをし、歯ブラシを洗う。最後に口の周りを手で溜めた水で洗ってさっぱりとする。
 洗面所からドライヤーの音が聞こえてきた。
「毎朝熱心だこと…」
「あら、絢も前はそうだったのよ。お父さんにいい加減にしろって、怒られたじゃない」
「そうだっけ?」
 すっとぼけてみるが、確かにちょっと前まで私も妹と争うように、熱心に鏡の前の自分と格闘していたのだ。
 寝癖ないか?とか、肩にフケが落ちてないかとか、今日のピン留めは赤にしょうか紺にしょうかとか。他人に言わせれば、どうでも良いような事を毎日やっていたのだ。
「南高に受かったら、毎日おしゃするんだーって騒いでいたから、どうなるかしらって思ったけど、その格好に落ち着いちゃったわね」
 Tシャツにジーンズ。髪は大きめのクリップピンで簡単にまとめている。ネイルとお化粧は校則で禁止されている(まあ、守らない人もいるけど)ので、せいぜい色つきリップぐらい。
「まあね、みんな大体こんな感じだし」
「たまにはスカート履いたら?」
 この間買った白いスカートを思い浮かべるが、学校に履いていったら汚れてしまう。
「部活で汚すとイヤだから、止めておく」
 ばたばたと音を立て、妹がリビングに飛び込んできた。
「やばい、やばい。時間がないよお。お母さん、お弁当!」
 母はカウンター越しに手を伸ばしてきた妹に、兎柄の布に包んだ小さいお弁当を渡した。
「ねね、イチゴ入れてくれた?」
「いれました」
「うわ、ガキくさ」
 思わずそう言ってしまった私を、妹は無言でにらみつけ、何事もなかったかのような顔でばたばたとリビングから出ていった。
 ちらりと見えたのは苺がついたピンクの髪留め。黒い髪と紺色の制服に、そのピンクが映えてとても可愛らしかった。
 いまから思えば制服があったから、毎朝がんばってたのかもしれない。
 みんな一緒だから、個性を表そうと必死にやっていたのだ。
 いまは毎日色んな服が着られるけど、通学やら部活なんかを考えてたら、面倒になってこのスタイルに落ち着いてしまった。
(彼氏とかいたら、違ったのかな?)
 昨日友達から合コンの誘いがあった事を思い出した私は、そのときにはあの白いスカートを履いてみようかと密かにを決心した。


学生日常10 お題「日常茶飯事」
作品名:日常茶飯事 作家名:asimoto