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【リリなの】Nameless Ghost

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従章 第十三話 猫の姉妹と書庫



 それほど久しぶりではない、ともすればとんぼ返りとも言えるほど懐かしくない本局の廊下を歩きながら、アリシアは未だ襲いかかる眠気に何度も欠伸を付きながら重い足取りでクロノの背中に付いていく。

「昨日は随分遅くまで話しをしていたようだな」

 クロノはそんなアリシアを見ながら少しあきらめの入った口調で声を掛けた。

「うん。ユーノがなかなか寝させてくれなくて……私も少し熱くなっちゃったし」

 瞼を擦り、アリシアは少しだけ足下をふらつかせる。あの後、ヴォルケンリッター達の奥に潜む6人目の存在という議題が思いの外面白く、二人は日付が変わってからも数時間の間なかなか熱く議論を展開させていたのだった。
 流石に、それらすべては机上の推論に過ぎず無いもので何か新たな事実が判明したと言うことにはならなかった。。
 とりあえず闇の書そのものがどうも怪しいというのが一番可能性としては高いが、実際の所6人目なんていない方が安心できるという結論で終わることになった。
 それでも、二人とも実に有意義な時間を過ごせたと感じる事が出来たのが一番大きかったのかもしれない。

「アリシアちゃん。その言い方は色々と誤解されるから気をつけないと。特に、なのはちゃんが聞いたらすっごく怒ると思うよ?」

 なのはではその言葉からオトナな意味合いを類推することは出来ないだろう。それでも最近身につけつつあるオンナの感がそこから不快感をもたらす可能性はかなり高いとエイミィは判断する。

 ともかく、本人達はまだ自覚の域に達していないだろうが、恋する乙女とは何かと最強なのだ。

「『恋する乙女の一匙あれば、世界を救うも滅ぼすも思いのままだ』ということか。まったく、言い得て妙だね」

 エイミィに右手を採られることで何とか歩容を安定させるアリシアはどこかの書物で読んだ言葉をそのまま引用して口にした。

「ふうん、そんな言葉があるのか。いったい誰の?」

 やはり、アリシアは博識だとクロノは思う。

「誰の言葉かは忘れたよ。どこかの小説だったか解説本にちょこっと引用されていたのが印象的だったからたまたま憶えていただけ。言葉の収集は結構いい暇つぶしになるから重宝するよ」

 エイミィはアリシアの話しを聞いてなるほどと頷いた。彼女の口達者はそう言うところから発生しているのかもしれないと思い、それなら自分も対抗できるようにならないといけないような気にもさせられる。
 将来的に身内になるかもしれない相手のことだ、今からそれに対抗できるよう努力するのも悪くはない。

「まあとにかく。今から会う連中がいくらアレでも曲がりなりにも提督の使い魔のお二人なんだから、せめての礼儀は果たすように。いいな? アリシア」

 アリシアと話をし出すと止まらなくなるということを知るクロノは少し強引ながら方向をねじ戻し、若干きつめにアリシアに言い聞かせる。

「あちらさんがそれなりの儀礼を果たしてくれるなら、考えてもいい」

 アリシアの返事にクロノは肩をすくめるが、アリシアの言い分ももっともだとも思えるためそれ以上の追求はやめた。

 これから三人があいにく人物はリーゼアリアとリーゼロッテという二人の使い魔だ。この二人はハラオウンと関連が深く、まずは彼等の恩人でありリンディの亡き夫であるクライド・ハラオウンの指導者であるギル・グレアムの使いまであること。そして、クライド亡き後強くなることを望んだクロノに魔法技術と戦闘技術を徹底的に叩き込んだということだ。
 クロノにとって、リーゼアリアとリーゼロッテはいわゆる魔法の師匠ということになるのだが、彼女たちが幼少の頃のクロノに行った児童虐待にも近いような訓練は彼に少々の心的外傷をもたらすこととなる。

 故に、クロノはこの二人を苦手とし、グレアムの前ではあるが極力この二人とはかかわりあいになりたくないと考えているのだ。

 アリシアは時の庭園から救助されて以来、アースラのハラオウン家の保護下に合ったためグレアム
そして双子のリーゼと知り合うきっかけがあった。
 元来猫としての性質を色濃く持つ使い魔の二人、そして猫のような好奇心と前世から続く悪戯好きなアリシアが出会うことによって悪夢は始まるとクロノは考えていた。

「失礼します。クロノ・ハラオウン執務官、到着しました」

 クロノはそう言って控え気味な陰鬱さを表に出すことなく、双子のリーゼとの面会を予定してる部屋の扉を開いた。

「クロ助ー!!」

 扉を開けたとたん、それを待ちかまえていたように一人の長身でショートの銀髪の女性がクロノに躍りかかってきた。

「うわぁ!!」

 クロノはそれに一瞬もんどり打って倒れ込みそうになるが、そこは流石執務官というべきか何とか後ろ足で踏ん張り体制を整え、飛びかかってきた女性を引き離すことに成功した。

「なんだよぉ、クロ助。お師匠様に向かってつれないぞ」

 女性は頭の両脇からはやした耳をピクピクさせながら獲物を狙う猫のように尻尾をピンとたてながらじわじわとクロノに向かって近づいてくる。

「うわ、やめろ来るな!」

 まるで女性恐怖症にでもかかったのかと言いたくなるような様子でクロノは後ずさり、壁際に追いやられることになるが猫耳の女性、リーゼロッテは「ふふふふ」と言いながら目を輝かせている。

「相変わらずねぇ、リーゼロッテは」

 そんな光景を尻目に、エイミィはさっさと部屋に入り奥のソファに腰を下ろしていたリーゼアリアに声をかけた。

「まあ、ロッテはクロノが好きだからね。これくらいは許して欲しいのだけど……久しぶりね、エイミィ、それとアリシア」

 リーゼアリアは双子の姉妹とその毒牙にかかりそうになっている少年を微笑ましいものを見るように眺め、エイミィとアリシアに挨拶をした。

 アリシアは既にソファに腰を下ろし、テーブルに置かれた紅茶のセットから勝手にお茶を入れていた。

「確かに、ザッと4ヶ月ぶりだねリーゼアリア。グレアム提督の様子はどう? そろそろお迎えが来ていないか心配しているんだけど」

 リーゼアリアはアリシアの無礼な物言いに少し耳をそばだてるが、父グレアムはイングランド的なユーモアを大いに理解するアリシアを重宝していることを知っており、そう言った物言いにもそれほど過敏に反応することもなく微笑みを浮かべた。

「私たちが頼むからお休みくださいと言っても聞いてくださらないほど元気よ」

 アリシアは「そうか、なによりだ」と呟きながら、未だにじゃれ合う猫のようににらみ合っていたクロノとロッテを横目に見て「ああ、そう言えば」と口を開いた。

「少し前に提督宛に『イリアスティール・コースタス』の名前で荷物が届かなかった?」

 『イリアスティール・コースタス』そして荷物という言葉にリーゼロッテとリーゼアリアはものの見事に硬直して言葉を失った。

 アリシアはその様子を見て、「これはしてやったな」と細い笑みを浮かべた。

「思い出すのも腹が立つ……あれのせいで……って、何でアリシアが知ってんの?」

 リーゼロッテは髪を逆立てながらぶつぶつと振り向き、その様子からはクロノからの興味は多少薄れてしまったように思えた。