【リリなの】Nameless Ghost
従章 第十二話 その後、ハラオウン邸にて
本日二度目の入浴を終え、暖まった身体の熱を心地よく思いながらタオルで髪を拭きながらアリシアはハラオウン邸のリビングに姿を現した。
「湯加減はどうだった? アリシアさん」
扉を開いたアリシアに真っ先に声をかけたリンディはそのままアリシアをソファへと呼び寄せた。
「少し熱かったですが、すっきりしましたよリンディ提督」
アリシアはほっこりとそう微笑むと、冷蔵庫を我が家のように開き風呂上がりのビールに手を伸ばした。
「そう、それは良かったわ」
リンディはアリシアの手をペチっとはたき、無理矢理彼女を抱き上げるとソファに腰を下ろした。
これ以上いらないことをしないようにとの配慮なのか、アリシアはリンディに抱きかかえられれたまま彼女の膝の上に座ることになってしまった。
アリシアは「ビールぐらい良いじゃない」と呟くが、リンディの有無を言わさない笑顔に負け、すごすごと口を閉じた。
実際アリシアの発達途上の味覚ではビールの苦さはむしろ不快に感じられるのだが、こういうのが雰囲気が大切だと彼女は考えていた。それを封殺されては面白くない。いっそのこと、ハラオウン邸に用意されている自室に自前の冷蔵を入れようかなどと考えているが、将来のプランの一つとして今は考えないことにしておいた。
「さて、ユーノ君とアリシアさんは食べながらで良いから少し話しをしておきましょうか」
実は、アリシアとユーノは夕食を取らないまま戦闘に乗り出していた。それを聞いたリンディは二人のために少し豪華な夜食を用意して待っていたようだ。
その殆どがミッドチルダで言う家庭料理というらしいが、それらはこの国では洋食と呼ばれる類のものらしい。
鶏の香草焼きにスマッシュポテトのフライ、生ハムとレタスのサラダに自家製パン。ラインナップを見ると、ランチとディナーの中程といったことろで、腹ごしらえにはもってこいだ。
アリシアとユーノは早速フォークを掴み取りほぼ3日ぶりになるかもしれないまともな食事をかきこみ始めた。
なのはとフェイト、アルフも軽くそれらを摘みながらクロノとエイミィが示したモニターに目をやる。
部屋の照明が若干落とされたリビングに浮かぶモニターには先ほどの戦闘と一週間前の戦闘の両方の映像が映し出されている。
「(モグモグ)結局(ゴックン)、あの連中の(ムシャムシャ)目的は判明したの? 美味いなこのポテト。ねぇユーノ、もう少し肉を食べた方がいいよ(バリバリ)ただでさえ細いんだから。アルフは肉ばっかり食べてないで野菜も食べなさい」
アリシアは口に肉を頬張りながらフォークで画面を指し示す。
「(ゴックン)そんなに肉ばっかり食べられないよ。(モグモグ)僕がヴィータから感じたことだけど(ムグムグ)、彼女たちは主のためって良く口にしてたから、裏であの人達を操ってる人がいるんじゃないかな?」
アリシアが指し示した|巨槌の紅騎士(ヴィータ)を見てユーノもそう言葉を放つ。
ユーノとしては、紅い少女はなかなか感情と行動が直結しているようであっても自分の分をわきまえているという印象があった。
彼女がことあるごとに呟く『主』と言う言葉がどう考えてもこの件の主幹になっていることは明らかだ。
「狼が野菜なんて食べらんないよ(ガツガツ)。アタシも(ガツガツ)ユーノと同じだね。あの蒼い犬もなんかそんなこと言ってたからねぇ(ガツガツ)。ちょいとアリシア、アタシが取っといた肉食わないでおれよ!」
アルフが犬と称する|盾の守護獣(ザフィーラ)に結局勝てなかったアルフは、少し悔しそうな表情を浮かべながら骨付きの羊肉を何本も口に頬張りながら腹いせにお茶(ノンシュガー)を飲み干した。
「早い者勝ちだよ、欲しかったら唾でも付けといて。それを考えると、連中は望まない蒐集をしているってことになるけど。私の判断によると自分から進んで蒐集しているって感覚だったよ」
彼らが何者かによる精神操作が行われている様子はないとアリシアは断言する。彼らは彼らの思惑があり、それに従い行動しているのだ。
「それは(パク)、私も思った(モグモグ)。あの、剣士も『これは私たちが選び、そして背負うと決めたことだ』(ゴクリ)って言ってたから」
フェイトの言葉になのはも首肯で答えた。フェイトはアリシアとユーノ、アルフに釣られてだろうが、両親の躾の行き届いているなのはは彼らと違い口にものを入れたまま喋ろうとはしないようだ。
それとも、ミッドチルダでは別段マナーに違反することではないのだろうかと一瞬なのはは考えるが、リンディとクロノ、ついでにエイミィまで三人に多少冷めた視線を送っているところそのあたりに関してはミッドも地球も変わりがないようだとなのはは思う。
「(ゴックン)ねえ、フェイトちゃん、アルフさん、ユーノ君にアリシアちゃんも。食べながら話すのはお行儀が悪いと思うよ?」
なのははそう四人に注意し、アリシア以外の二人は思わず口を押さえ恥ずかしそうに口の中のものを咀嚼し「ゴメン」とわびを入れた。
アリシアは「良いじゃないか、細かいことは」といって聞かないが、リンディの一睨みで口を閉じ二人に習って口の中を空にした。
クロノはため息を吐き、温かいお茶(ノンシュガー)を一口飲んで気を落ち着けた。
「彼らに関してはまず結論から言おう……と思ったが、ひとまずアリシアとユーノは食事を済ませてくれ。話しはそれから改めてしよう」
クロノはそう言って一応母リンディの顔を伺うが、リンディもまた温かいお茶(フルシュガー=りんでぃ・すぺしゃる)で喉を潤しながらゆっくりと頷いた。
アリシアはとりあえず「ありがとうございます」と礼を言ってユーノと本格的な食事(第何次食卓戦争)を繰り広げる事とした。
ちなみに、お預けを喰らったアルフは恨みがマシそうにクロノを見るがフェイトに「そんな目で見ちゃダメ」と言われると犬らしくすごすごと引っ込み、不機嫌をアピールするためか子犬モードに変身しソファーのすみにうずくまり丸くなってしまった。
「ああ、そうだ。リミエッタ管制主任。今のうちにフェイトとなのはにデバイスのことを話しておいた方が良いんじゃないかな?」
最後のミートボールを巡ってユーノとフォークでチャンバラを繰り広げながらアリシアはエイミィにそう提案した。
「あ、そうだね。時間ももったいないし」
アリシアとユーノの勝負の行方を動画で取りつつトトカルチョなどをしながらのんびりしていたエイミィは映像を取る手はそのままでなのはとフェイトを呼ぶことにした。
ちなみに言えば、トトカルチョは4対2でユーノ有利だ。金品を賭けなければ別段、賭自体は禁止されていない。
「頑張ってお姉ちゃん!」
「勝つのはユーノ君だよ!」
共に贔屓にする身内に声援を送りつつ、フェイトとなのはは明日の朝の食事当番の行方を賭けて手に汗を握っていた。
作品名:【リリなの】Nameless Ghost 作家名:柳沢紀雪