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【リリなの】Nameless Ghost

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従章 第九話 テスタロッサ−ハラオウン



 武器は使わないのが一番なんだよ、とお姉ちゃんは言っていた。
 そのときの寂しそうな、悲しそうな笑顔を私はずっと忘れられないでいる。

***

 こんなに緊張したのは初めてアリシアをお姉ちゃんと呼んだとき以来だとフェイトは思っていた。
 フェイトはガチガチに身体を固めながら閉ざされた教室のドアから聞こえてくる教師の声に必死に耳を傾けていた。
 聖祥大学付属小学校。なのはやユーノ、そして先日友人となったアリサやすずかがかよう学校に今回フェイトも通うことが決まっていた。
 フェイトは制服という着慣れない服をつまみながら、着こなしに問題はないかと最後のチェックを行おうとするが、教師の「では、テスタロッサさん、入ってきなさい」という声にビクッと背筋を引き延ばし、ゆっくり深呼吸して扉をスライドさせた。

 教室に足を踏み入れた瞬間、クラスから「わぁ」という歓声が上がるが、緊張でがちがちになるフェイトにはそれがどういった意味合いのものなのかを類推する余裕はなく、担任教師の誘導に従いペコリとお辞儀をした。

「フェ、フェイト・テスタロッサです。この国には来たばかりなので、えっと、右も左も分からないのですが……よ、よろしくお願いします」

 昨日の晩、リンディやエイミィに付き合って貰った練習の通り、フェイトは何とか転向初日の挨拶を済ませ、ホッと一息吐いた。
 パチパチパチとわき上がる拍手の中からなのはが笑顔で手を振っているのが見えて、フェイトは頬を赤く染め小さくそれに手を振り替えした。

「テスタロッサさんはイタリア出身で、家族の事情で日本に来ることになりました。皆さん、仲良くしてあげてくださいね。じゃあ、テスタロッサさんの席は高町さんの隣になります。高町さん」

「はい!」

 なのははフェイトが隣の席になることを予め知っていたらしく、担任の呼び声に元気に手を挙げて答えた。

「今日一日、テスタロッサさんのことをよろしくお願いしますね。学校のこととか授業のこととか、色々と教えてあげてください」

「はーい、分かりました」

 なのはの元気な声に教師はにっこりと笑って頷き、フェイトを席に着くように促した。
 二人目の海外出身の転校生が珍しいのか、これからフェイトのクラスメイトとなる少年少女達は物珍しそうな、どこか期待に満ちた眼差しを通り過ぎるフェイトに向けながらこそこそと話しをする。

「はい、静かに。テスタロッサさんへの質問などは休み時間にするように。これで朝の会を終了します。日直、号令を」

 ぱんぱんと手を叩いて教師がクラスを落ち着け、日直の生徒が「起立、礼」と告げ、朝の会はそれで終了を告げた。

*****

 午前中の授業も終わり、一時間程度の昼休みに入ってフェイトはなのは達と昼食を取るために屋上に連れてこられていた。
 今の時期は外で食事を取るには気温が低く、実際春先と比べ屋上にいる生徒の数はフェイト達を含めても数人と言うところだ。
 幸いこの日は良く晴れていて、風が吹き付けない日向でじっとしていればある程度は暖を取ることも出来る。

「はぁぁ……」

 フェイトはリンディに用意して貰った暖かいお茶を飲みながら、心底疲れた様子で大きくため息を吐いた。

「あははは、大変だったねフェイトちゃん」

 心底疲れたという塩梅で深く息をつくフェイトを苦笑いで眺めながらなのははフェイトを労う。

「転校生の通過儀礼みたいなもんよ」

 フェイトに群がる少年少女達をとりまとめ質問会の音頭を取ったアリサは、こっちの苦労も分かって貰いたいもんだわ、とため息をつきながらフォークで弁当箱をつつきウィンナーを頬張った。

「うち私立だから転校生自体が珍しいからね。それにしても、私はてっきりアリシアちゃんも一緒に転校してくるものと思ってたけど。どうなの? フェイトちゃん」

 アリサの言葉にくすくすと笑いながらすずかは先日の歓迎会で知り合ったフェイトの姉の事を問いた。

「あ、お姉ちゃんは、その、色々事情があって……身体のこととか……」

 まさかアリシアは今本局の一室に籠もりきってレイジングハートの調整を行っているとは言えないため、フェイトは何とか言葉を濁すしかなかった。

「アリシアちゃん、お日様に弱いんだよね? やっぱり、こっちの学校に通うのは無理なの?」

 それを差し引いても、アリシアは事情持ちであることを知るなのはは心配そうにフェイトに聞いた。
 フェイトはそれに頷き、

「無理すれば何とかなるってリンディ提……リンディさんが言ってたけど、やっぱり難しいって」

 しかも、アリシア本人は学校に通うことを拒んでいる様子だった。実際、アリシアは本局に来て地球の勉強が遅れているユーノに勉学を教えていたこともあり、その知識は小学生の域を超えている。
 デバイスのアルゴリズムやシステムの構築には、微分方程式、行列関数、フーリエ級数やラプラス変換といった高度な数学的知識が必要であるし、それに運用される魔力もまた物理現象の一環と見なすことが出来るためそれに必要な物理知識、力学や電磁気学、魔法力学や制御工学など幅広い知識が必要とされる。
 これらの用語は地球固有のものだがそれに準ずるものはミッドチルダをはじめとした次元世界にも存在するのだ。

 はっきり言ってしまえば、今更小学生の学校に通ってまで勉強をするなど馬鹿馬鹿しくてやっていられないというのが本音なのだろう。現地語や歴史、文学、社会制度や産業経済などは教えて貰わなくても自分で学ぶことが出来る。実際、ベルディナは様々な次元世界を渡り歩く際に、そう言ったことは自力で学んできたのだ。

 だが、その側面を知らないなのはとしてはやはり学校には通うべきだと考えており、フェイトも姉と同じ学校に通いたいという願いがある。
 保護者のリンディとしてはなるべくフェイトの願いを叶えたいと思ってはいるものの、アリシアの事情を無視することは出来ない。故に、フェイトにはアリシアの身体の事情、太陽の光にきわめて弱いという先天的遺伝子疾患、を理由に今のところはアリシアの修学を控えているという状態だ。

「だけど、フェイトのお姉さんって何だが不思議な人よね。なんか、妙に落ち着いてるって言うか。下手したらあたし達より大人っていうかさ。っていうか、見た目あたしらより年下なのに、何でフェイトのお姉さんな訳?」

 もぐもぐと食事をほおばりながら、アリサは話題をそらせた。アリシアの事情というものには興味はあるが、本人のいないところで話されるべきではなく、また無責任な推測をするのもアリサは嫌った。

「あ、それは私も同感。なんだか、凄い大人の人と話してる感じだった。フェイトちゃんのお姉さんっていうのは違和感がないんだけど……」

 すずかもアリサの思惑を正確にくみ取り、彼女の話題に乗ることとした。
 しかし、何気なく出されたはずの話題にフェイトは少し困った表情を浮かべた。

「それは……アリシアは私のお姉ちゃんだから」