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【リリなの】Nameless Ghost

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従章 第八話 今というミチ



 アリシア達が地球で行った戦闘は思わぬ副産物を呼びこんでいたと言うことを知ったのは、夜が明けた早朝の事だった。
 アリシアがあの戦闘の最後で負傷を受けることとなった例の魔法は、昨今問題になっていた魔導師襲撃事件の手口と完全に一致するということがあきらかになったのである。
 それまで管理局は第97管理外世界地球を中心とした事件であることだけは掴んでいたが、管理局法の足かせもあり今まで具体的な介入捜査を行うことが出来なかった。
 しかし、今回の戦闘はその当該世界で発生し、その現地の人間が襲撃にあった。管理外世界での魔法行使禁止条例違反、魔法を用いて現地人民間人に対する殺傷行為。これは、実質的に管理外世界への捜査介入を行うには不十分な理由だが、現地民間人の保護の名目で地球に仮設駐屯所を形成するには問題のない理由となった。
 仮設駐屯所はあくまで仮設のものだ。その駐屯所としての運用は一年以内と定められ、現地に配備される人員も戦闘要員を含めて最小限のみが認められる。
 この事件にアースラチームが宛がわれることになったことは、リンディ達アースラスタッフにとっては渡りに船のような状態に違いない。先ほどの事件ではドッグに固定されオーバーホール中だったアースラを技術部を説得し脅し無理矢理動かしてしまったのだから、当面の間リンディ達はアースラに近づくことすら出来ない。アースラのオーバーホールが暫定的にも終了するのが最短で半月後と予想されている。
 よって、リンディを代表しアースラチームは地球の海鳴市、正確にはなのはの実家である高町家の近くのアパートの一フロアを接収し、司令所付きの仮設駐屯所を形成する事となった。

 地球、海鳴市。その日は洗濯物がよく乾く快晴であり、絶好の引っ越し日和となった。引っ越し日和と聞いてなのははミッドチルダにはそう言う言い回しがあるのかと首を捻るが、それはリンディ独自の言い回しだったらしく、とにかく晴れて良かったねと言うニュアンスだったらしい。
 確かに心機一転、新しい生活を始めるには快晴の日がもってこいであるし、新たな出会い、新しい友人を知り合いに紹介する日としてはよい日和とも言えるだろう。
 アリシアは冬の澄んだ空気を通して照りつける日差しにリンディから渡された鍔広の帽子を被り直し、サイズが合わずにずれたポリカーボネイト製の黒眼鏡を直し、少しため息をついた。

「大丈夫? お姉ちゃん」

 そんな何処か辛そうなアリシアに隣を歩くフェイトが心配そうに声をかけた。

「大丈夫、フェイトは平気?」

「うん、私は大丈夫だよ」

「そう。それは、何より」

 アリシアはそう言うと、フウと一息ついた。
 やはり、赤い目には強い日差しが辛い。アリシアはフェイトと同様に赤色の瞳を持つ。それ故、赤みかかった瞳孔と虹彩は光に対する耐性が低いことは避けられないようだ。気がついたのは、ハラオウン親子に連れられてクラナガンにショッピングに行ったときだった。
 基本的に太陽のない本局や船の中で生活していたアリシアは、クラナガンの太陽の下に出たとたんしきりに目を痛そうにしばたたかせ、しまいには目を閉じていないと痛くて歩くことすら出来なくなっていた。
 あわてたリンディとクロノはそのままアリシアを担いで眼科に直行し、診察を受けさせたが医師の返答は「光彩が赤いために光や紫外線に対する耐性が低い」という診断だった。これはおそらく遺伝子的な問題であり、同じ症状の患者の中ではまだましな部類だという。
 兎も角、外出時にはUVカットグラスをかけ、肌を極力露出させない。露出する部分には日焼け止め効果のあるファンデーションを施し、その上からさらに日焼け止めクリームを塗りこむ。この三つを心がければ日常生活にはまったく苦労しないと診断され、リンディ、クロノ共々胸をなで下ろしたものだった。

 しかし、自分と同じ遺伝子もち、自分と同じ朱い瞳を持つフェイトはこの日差しの中で目をさらしていてもアリシアのような苦痛を味わっていないと言うことはどういう事なのだろうか。
 プレシアが生前のアリシアがそれで苦しんでいた事を鑑みて遺伝子的に問題を解決したと言うことなのだろうか。ともあれ、妹が自分と同じ苦しみをしなくてもいいと分かるとアリシアは気休め程度には安心することが出来た。

「大変だね、アリシアちゃん」

 最初こそ黒眼鏡をかけて玄関から現れたときはぎょっとしていたなのはだったが、アリシアのその事情を知ってからは、世界にはそう言う疾患もあるんだと何か感心したような表情をしていた。
 同情するのでもなく哀れむのでもない。単純な驚きに満たされるその表情にアリシアは悪くないと感じた。
 ともあれ、なのはを筆頭にフェイトとアリシアが先日引っ越してきたアースラの駐屯所(ハラオウン邸と呼称される)から外出してきたのは他でもない。なのはがフェイトとアリシアに紹介したい友人が居ると言うことだった。

「まあ、嘆いても仕方がないのだけどね。ところで、君の友人は翠屋という喫茶店で待っているってことでよかった? 高町なのは」

 ハラオウン邸のマンションの廊下から見たその店らしき建物はそれほど遠くには感じなかったが、歩幅の狭いこの身体にしてみればそれなりに距離が離れた場所に感じられた。
 大人なら歩いて10分弱、アリシアの身体なら歩いて15分から20分といったところか。確かに、それなりの距離である。
 なのはは「うん、そうだよ」と肯いて、ふと思い立ち止まると、膝をついてアリシアと視線を合わせた。

「ん、なに? 高町なのは」

 アリシアは突然自分に目を合わせてきたなのはにそう問いただす。正直あまり日差しの下にはいたくない。そのため、その口調に若干の棘が生じた事は無理のないことだ。

「えっとね、アリシアちゃん。私のことはなのはって呼んでくれないかな?」

(ああ、そういうことね)

 そう言えば、この少女はそう言う人物だったとアリシアは思いだした。いや、というよりは今まで自分があまりにも失礼だったということか。 
 アリシアはそう判断し、ゆっくりとグラスを外してなのはの目をまっすぐ見た。

「分かったよ、なのは。これからはこう呼ばせて貰うね」

 グラスを外した瞬間、アリシアはまぶしさに目がくらみそうになるが、それをじっと耐えてなのはに手を差し出した。

「うん。ありがとう、アリシアちゃん」

 なのははその手を両手にとり、漸く読んでくれた名前を心に刻みつけるように白い小さな手をギュッと握りしめた。
 涙腺が痛む目をせめて保護しようと涙をにじませる。その涙は頬を伝いアリシアの服に薄いシミを作り出していた。

***

 子犬フォームのアルフをつれたユーノがアースラクルーと共に喫茶翠屋に到着したことでこの日来る予定だったメンバーがそろうこととなった。
 店内で様々なグループに分かれ歓談する友人達一同を見回し、翠屋のオーナー高町士郎は頃合いを見計らって立ち上がり、傾注を呼びかけた。
 士郎は店内の視線が自分に集まっていることを確認し、一度「エヘン」と咳払いをし柔和な笑みを浮かべ口を開いた。